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心理職

発達障害の支援に関する資格の一つに心理職があります。
市の発達相談や学校のスクールカウンセラー、園の巡回相談員には心理職が配置されています。心理職には「臨床心理士」「公認心理師」「臨床発達心理士」「学校心理士」「認定心理士」など実に多くの資格があり、利用者としては何を基準にどの心理職に相談したらよいか戸惑うものです。
そこでこの記事では、心理職の中でも「公認心理師」「臨床心理士」「臨床発達心理士」について説明し、各心理職の特徴や利用の際のポイントなどについて説明していきます。

臨床心理士とは

臨床とは、読んで字のごとく病床に臨むということであり、患者に接して診察や治療を行うことを言います。臨床心理(学)とは、広い意味でいうと病気や悩みを抱える人に対して、心理学の知識と技術で支援することであり、それをする専門職が『臨床心理士』と大まかに定義することができるでしょう。

臨床心理士は内閣府が認可する公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会(以下、臨床心理士資格認定協会)が実施する試験に合格して認定を受けることで取得できる資格です。資格は民間の資格であり、国家資格ではありません。ただし、臨床心理士資格認定協会が実施する試験を受けるためには、専門のカリキュラムを備えた特定の大学院を修了しなければなりません。臨床心理士は民間の資格ではありますが、高度な教育と訓練を受けているのです。
また、臨床心理士の資格は資格更新制度が設けられており、5年に一度資格を更新しなければなりません。資格更新には研修会の出席や学会発表などにより一定のポイントを取得することが義務付けられており、これにより知識や技術の維持向上が担保されています。

臨床心理士の専門行為とは

臨床心理士資格認定協会が定める臨床心理士の専門行為に以下の4つがあげられています。

①臨床心理面接

臨床心理学に基づいたやりとりによって、こころや行動の問題を解決します。その技法としてカウンセリング、行動療法、ペアレントトレーニングなどがあります。

②臨床心理査定

心理検査を行い、その結果から問題や要因を見つけ、対策を考えていきます。心理検査の中には発達検査や知能検査が含まれます。

③臨床心理的地域援助

個人を対象に行う業務ではなく、職場や学校などの集団に対してコーディネートやコンサルテーションなどの支援活動を行います。

④研究調査

臨床心理学をはじめとした心理学系の調査や研究を行います。これにより、自分自身の知識や技術の向上になるだけでなく、臨床心理学の全体的な発展につながります。

臨床心理士の活躍する場所

臨床心理士が活躍する場所は、教育、医療、司法、福祉、産業など実に様々です。
例えば、教育場面では文部科学省の『スクールカウンセラー等活用事業』で臨床心理士がスクールカウンセラーとして活躍しています。ただし、以前のスクールカウンセラー選考要件は臨床心理士でしたが、現在は公認心理師も指定されているだけでなく、東京都では特別巡回心理士として臨床発達心理士を要件としており、学校に関係する心理士=臨床心理士ではなくなってきています。

学校以外には病院が活躍の場となることが多く、この場合、医師の指示のもとにカウンセリングや心理検査を行います。臨床心理士の中には個人でカウンセリングルームを開業している人もおり、相談内容が夫婦問題、仕事の悩みなど病気の有無に関わらず相談対応しています。ただし保険診療とはならないため、カウンセリングルームの定める料金を支払わなければなりません。

公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会 
http://fjcbcp.or.jp/rinshou/about-2/
スクールカウンセラー等活用事業 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1341500.htm

公認心理師とは

2015年の「公認心理師法」に基づいて生まれた、日本唯一の心理職の国家資格となります。
2018年9月に第1回目の国家試験が行われており、まだ生まれて間もない資格です。
公認心理師は弁護士や公認会計士の『士』ではなく、医師や教師の『師』が使用されます。

公認心理師の専門行為と活躍する場所は

法令に定められている公認心理師の業務には以下の4つがあります。

  1. 心理に関する支援を要する者の心理状態の観察、その結果の分析
  2. 心理に関する支援を要する者に対する、その心理に関する相談及び助言、指導その他の援助
  3. 心理に関する支援を要する者の関係者に対する相談及び助言、指導その他の援助
  4. 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供

これらの業務は基本的に臨床心理士に求められている業務とほぼ同じです。 公認心理師が活躍する場所も臨床心理士と同様、教育、医療、司法、福祉、産業など多岐にわたります。

公認心理師の特徴

専門的な行為も活躍する場所も臨床心理士に類似する公認心理師の特徴は何なのでしょうか。公認心理師は臨床心理学だけでなく、学校心理士や産業カウンセラーなどの臨床心理学以外の諸学会との話し合いにより成立した資格です。そのため、公認心理士のカリキュラムは臨床心理学に偏りすぎないよう、心理学を幅広く学習するように作られています。
受験資格にも特徴があります。臨床心理士は臨床心理士資格認定協会が実施する試験を受験するために、指定された心理学系の大学院を修了しなければなりません。この場合、卒業大学は経済学部、理工学部など種類を問われません。一方、公認心理師は指定大学院の修了は必要とされませんが、大学で数多くの心理学のカリキュラムを修得し、さらに、2年間の実務経験か大学院での訓練がなければ受験資格を与えられません。

まとめると、臨床心理士は学部不問の大学4年間と指定大学院での2年間で受験資格が得られ、公認心理師は心理学系大学の4年間と実習か大学院での2年間で受験資格が得られるのです。両資格ともに高度な教育と訓練を受けているのです。 大きな違いとしては、臨床心理士が5年ごとに更新が必要とされ、そのために研修会や学会へ参加することが必須になりますが、公認心理師は更新が不要であるため、知識や技術の維持向上は各々の活動に大幅に任せられることになります。また、公認心理師が心理職に関する国家資格であるため、今後、病院などの特定の場所では公認心理師しかできない業務が規定されていくと予想されます。

なお、島根県では臨床心理士会と公認心理師協会とを兼ねています。誕生して間もない公認心理士の受験資格はしばらくの間、経過措置として緩和されています。そのため、臨床心理士資格保有者がそのまま公認心理師を受験して両資格を保有することが多いのです。そのため、島根県では両資格を兼ねた事務局となっています。今後は公認心理師のみ資格を保有する専門家も増えてくるでしょう。

島根県臨床心理士会・公認心理師協会 
https://shimarin.wixsite.com/home
厚生労働省 
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000116049.html

臨床発達心理士とは

臨床発達心理士は、一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構が認定している民間資格です。発達心理学をベースにして『発達的観点』から支援をする心理職と言え、子どもの発達に限らず、成人の成長や高齢者の加齢をも含んだ一生涯の発達が支援の対象です。

臨床発達心理士の専門行為と活躍する場所は

臨床発達心理士は生涯発達の観点から乳児から高齢者まで幅広く支援の対象であるだけでなく、臨床=病床に臨む、との限定された理解にとどまらず、発達の支援のニーズがある人達を対象にしています。また、臨床発達心理士は生物学的な発達や成長を理解していくだけでなく、幼稚園や学校、そこで働く教員などの関係や、家庭の生活状況、地域行政の支援の在り方にも関与して、時間や地域をも視野に入れた支援を実施しています。

臨床発達心理士の専門行為は臨床心理士や公認心理師のように、明記されたものはありません。しかし、発達に対する専門的、かつ幅広い視点を持った支援を行う心理職であり、その活動場所は近年拡大しています。
こどもに関する活躍の場として、例えば、新生児医療の場にて、育児不安の解消や愛着形成の援助をします。保育所、幼稚園、学校では巡回相談員や特別支援教育コーディネーターとしての業務をします。東京都では特別巡回心理士として臨床発達心理士が要件となっています。その他にも乳児院や児童養護施設、保健所、発達支援センター、小児科病院などで活動しており、各種の発達検査や発達支援を実施しています。

臨床発達心理士の中には、他の資格や免許を取得して職務に就いている場合が少なくありません。学校の先生や作業療法士、言語聴覚士の専門家が技術向上のために臨床発達心理士の資格を取得していたり、臨床心理士や公認心理師などの他心理職も発達に関する知見を深めるために臨床発達心理士の資格を取得したりすることがあるのです。

臨床発達心理士の特徴

臨床発達心理士は臨床心理士と同じように民間の心理職資格になります。受験資格は以下の5つとなります。

  • 発達心理学隣接諸科学の大学院修士課程在学中または修了後3年未満
  • 臨床経験が3年以上あり、かつ発達心理学隣接諸科学の大学院を修了している
  • 臨床経験が3年以上あり、かつ発達心理学隣接諸科学の学部を卒業している
  • 大学や研究機関で研究職をしている
  • 公認心理師を取得している

上記のことからわかるように、臨床発達心理士も臨床心理士や公認心理師と同様に高い専門性と知識技術が求められているのです。また、臨床心理士と同様に資格更新制度が設けられており、5年に一度資格更新をしなければなりません。資格更新のためには研修会や学会発表でポイントを獲得しなければならず、知識技術の維持向上が制度的に図られています。
ただし、公認心理師と違い国家資格ではないため、臨床発達心理士の業務は医療保険が適応されません。

発達障害支援の心理職の選び方

各心理職は高度な知識や技術を備えていますが、専門の違いとしては下記の通りです。

  • 臨床心理士は、カウンセリング心理学や精神分析学的心理学などの臨床心理学がベース
  • 公認心理師は、認知心理学、産業心理学、教育心理学など幅広く心理学に精通している
  • 臨床発達心理士は、発達心理学に特化している

また、その資格や養成過程の違いとして下表のような特色があります。

臨床心理士 公認心理師 臨床発達心理士
資格 民間資格
公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会
国家資格
公認心理師法
民間資格
一般社団法人臨床発達心理士認定運営機構
業務内容 学校教育法に基づいた大学、大学院教育で得られる高度な心理学的知識と技能を用いて
  1. 臨床心理査定
  2. 臨床心理面接
  3. 臨床心理的地域援助
  4. ①~③の研究調査等の業務
  5. を行う。
保健医療、福祉、教育その他の分野において、専門的知識及び技術をもって
  1. 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
  2. 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
  3. 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
  4. 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。
発達心理学を中心とした知識と技術によって、成長、発達、加齢などの一生涯の発達を支援の対象にする。 また、発達による問題への対処だけでなく、発達の課題にアプローチし、発達そのものにつながる支援を提供する。
受験資格の違い
  1. 学部を問わない大学
  2. 指定大学院(1種or2種+実務1・2年間)
  3. 資格試験
  1. 心理系大学
  2. 大学院2年間 or 実務経験2年間
  3. 資格試験
  1. 発達心理学系の大学院修士課程在学中または修了後3年未満
  2. 臨床経験3年以上、かつ発達心理学系の大学院修了
  3. 臨床経験3年以上、かつ発達心理学系の学部卒業
  4. 大学や研究機関で研究職
  5. 公認心理師
資格更新 5年ごとに更新
更新のために、学会発表や研修会への参加が必要
更新なし 5年ごとに更新
更新のために、学会発表や研修会への参加が必要

心理職の多くは保健センターなどの行政機関や学校巡回などの教育支援サービスのために配置されており、所属する機関や携わる業務によって専門性を磨いているため、適切な心理職を選ぶかどうかではなく、適切な支援機関や支援サービスを選ぶことが重要となります。 しかし、それでも心理職の中には個人開業をする方や、機関に所属しながらも独自の高度な知識や技術をお持ちの方もいます。ですので、相談する前に心理士(師)の得意分野、専門分野を確認してもよいでしょう。なお、臨床心理士に関しては、一般社団法人日本臨床心理士会のホームページにて、登録届のある臨床心理士を地域、性別、相談したい内容別に検索することができます。

発達検査や知能検査は、医療機関に限らず児童相談所や大学相談室、個人開業のカウンセリングルームでも受験することができます。病院での検査受験は、医療保険が適応され低額で受験することができますが、予約待ちが長期化しておりなかなか受けることができないというデメリットがあります。病院外の検査受験は、病院での受験に比べて比較的早くに受験できますが、医療保険が適応されず、料金が高額になってしまうデメリットがあります。 検査受験の緊急性とその料金、そして心理士(師)の専門性を総合的に鑑みて検討しましょう。

一般社団法人日本臨床心理士会 http://www.jsccp.jp/near/