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保育所等訪問支援

保育園、幼稚園、小学校や中学校には専門家による巡回相談があり、自治体に整備することが求められています。これらの巡回相談と類似の支援施策に『保育所等訪問支援』があります。自治体整備の巡回相談事業が園や学校の要請で相談支援が開始されるのとは異なり、保育所等訪問支援は保護者の要請によって相談支援が開始されます。
この記事では保育所等訪問支援について解説し、訪問支援の意義や利用に際しての注意点などについて説明します。

保育所等訪問支援とは

保育所等訪問支援は、児童福祉法第6条の2の2第5項に位置付けられた社会福祉事業です。児童発達支援事業や放課後等デイサービスと同様に、2012(平成24)年の児童福祉法改正で創設された新しい福祉サービスです。
保育所等訪問支援の事業概要は児童福祉法に以下のように定められています。

『保育所等訪問支援とは、保育所その他の児童が集団生活を営む施設として厚生労働省令で定めるものに通う障害児又は乳児院その他の児童が集団生活を営む施設として厚生労働省令で定めるものに入所する障害児につき、当該施設を訪問し、当該施設における障害児以外の児童との集団生活への適応のための専門的な支援その他の便宜を供与することをいう。』(児童福祉法第6条の2の2第6項)

つまり、子どもが通う保育園や幼稚園、小学校や放課後児童クラブなどの他、子どもが入所する乳児院や児童養護施設に専門家が訪問し、子どもが集団活動をスムーズに営めるように支援をするのです。別の施設や機関で練習や訓練をするのではなく、生活をしている当の場面へ訪問して支援するという点が大きなポイントと言えるでしょう。

障害児通所支援の一元化と種類 厚生労働省

なぜ訪問による支援なのか

幼児を対象にした支援には『児童発達支援事業』があります。児童発達支援事業では、最寄りの児童発達支援事業所や地域の基幹的な位置づけにある児童発達支援センターに行って支援を受ける形式をとります。一方、保育所等訪問支援では、専門家の方が子どもの通う保育所や学校などに赴いて支援をします。
このように専門家が訪問して支援する意義には以下のようなものがあります。

幼児期の発達課題の特徴

コミュニケーションが苦手、集団行動ができない、手が出てしまうなどの発達の課題は、集団場面で生じやすい特徴があります。1対1の場面では問題行動が生じにくいため、児童発達支援事業で実施するような個別の療育や保護者への支援ではなかなか効果をあげることができません。そのため、集団生活を送っている生活そのものの場所で支援することが必要になります。

支援内容の般化(汎化)が難しい

般化(汎化)とは、学習した内容が類似の場面や状況においても生じることを言います。例えば「おやつの時間に友達が自分のお菓子に手を伸ばして来たら『やめて』と言う」を習得できたら、一人で遊んでいるときに友達が近づいて手を出そうとしても『やめて』と言うことができるようになります。
自閉スペクトラム症の子どもの傾向として、状況が変わると習得したスキルを発揮することが難しくなることが少なくありません。そのため、別の場所で訓練や練習をするのではなく、保育所などの実際の場面で支援をするのです。

福祉機関と教育機関との連携

文部科学省をはじめ、国は一貫した支援が可能となるよう『相談ファイル』や『サポートファイル』を作成し、各機関で必要な情報を共有することを推奨しています。しかし、児童発達支援事業所などが保育所などへ内容を報告する義務はないため、保護者としては療育内容がうまく引き継がれていないことにもどかしさを感じることもあるでしょう。
保育所等訪問支援は専門家が保育所などに出向いて支援をするため、保育所の実情に適した支援になるだけでなく、保育士の先生も支援の様子をみることができるため、情報共有のミスマッチを防ぐことができるのです。

インクルージョンの実現

インクルージョンは「包含」や「包摂」という意味であり、社会的な弱者を社会から排除するのではなく(社会的排除)、地域の資源を利用して地域で支えること(社会的包摂)を目指します。そのため保育所等訪問支援では、子どもを生活している場面から引き離して支援するのではなく、生活しているその場で支援をするのです。これにより、支援を受ける子どもだけでなく、その保護者も支援を受けるために隣市町にある施設に通うことはなくなり、できるだけ生活の場に近いところで支援を受けられるようになります。

「相談・支援手帳(ファイル)」の作成 文部科学省
障害者福祉の仕組み(インクルージョン) 総務省
共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)概要 文部科学省

対象児童

保育所等訪問支援の対象となる子どもの要件は下記の通りです。

  • 身体に障害のある児童、知的障害のある児童、精神に障害のある児童
  • 保育所等に通所している
  • 集団生活に専門支援を要する

児童福祉法第4条第2項には『障害』と記載がありますが、児童発達支援や放課後等デイサービスと同様に診断書や障害者手帳の有無は問われません。
『保育所等』に該当する保育所等訪問支援の訪問先は、児童福祉法で「保育所その他の児童が集団生活を営む施設として厚生労働省令で定めるもの」と定められており、保育所、幼稚園、認定こども園のほかに、小学校、特別支援学校、その他児童が集団生活を営む施設として『市町村が認める施設』となります。『市町村が認める施設』には、自治体によっては、放課後児童クラブや中学校、高校までもが該当することがあります。なお、2018(平成30)年に保育所等訪問支援の対象が拡大されることとなり、「乳児院その他の児童が集団生活を営む施設として厚生労働省令で定めるもの」まで対象拡大され、乳児院や児童養護施設も対象となりました。

『集団生活に専門支援を要する』には、実際に集団不適応を起こしていなければならないということはありません。特性のために今後に可能性がある場合でも、以前に集団適応の問題があったが今は改善いる場合でも利用対象者となります。この場合、専門家の意見などがあることが望ましいでしょう。

保育所等訪問支援の対象拡大 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部

支援内容

児童福祉法に「当該施設における障害児以外の児童との集団生活への適応のための専門的な支援その他の便宜を供与する」(児童福祉法第6条の2の2第6項)と定められている通り、保育所等訪問支援の最大の目的として集団適応が挙げられます。
その方法として子どもに対して直接対応する『直接支援』と保育士などのスタッフへ働きかける『間接支援』とがあります。
直接支援では、個別の発達課題に応じて個別支援のように集団から取り出して支援することも可能ですが、基本的には訪問先の保育所等の活動を妨げることがないよう集団活動内で支援することになります。

間接支援では、保育士の先生方に対して子どもの発達特性に対する理解を促していき、子どもにとって安心できる保育を検討、実行できるようにしていきます。訪問支援員が園での子どもの様子を観察したり、保育士などに子どもの様子を伺ったりしてアセスメント(評価)し、必要な支援方法や望ましい環境調整を一緒に検討していきます。時には、訪問支援員が保育時間に子どもと関わり、後にどのような意図で関わったのかを園のスタッフ全員で共有することもあります。
これらの支援は発達障害のそのものの改善や解消にあるのではなく、集団生活に必要な支援を蓄積していくことにあるでしょう。支援のノウハウは保育所だけで蓄積するのではなく、保護者を通じて入学先の学校にも共有することで、家庭でも学校でも一貫した支援が提供されることとなり、地域全体の支援が可能となります。

また、保育所等訪問支援は「障害児等療育支援事業」や「巡回支援専門員整備」(後述)のように保育所職員に対する指導が目的ではなく、職員自身で子どもの支援を検討できるようにする支援であるため、保育所職員の自律性な行動にもつながり、園全体の支援力が高まることも期待できるのです。

申請方法と利用料金

保育所等訪問支援を受ける手順はその他の通所支援サービスと同様です。具体的な利用手順は「福祉サービス利用手順」を参照ください。保育所等訪問支援を利用するかどうかを悩んでいる場合には、障害児相談支援に相談するとよいでしょう。障害児相談支援事業所は自治体が取りまとめていますので、市役所に問い合わせをしましょう。
市町村が保育所等訪問支援の給付を認めると、保育所等訪問支援の事業所が保護者と保育所などと訪問日程や連絡方法などを調整し、支援を開始していきます。訪問支援によってまとめられた支援内容や意見は保護者に報告されますが、報告頻度は訪問するごとに、一定期間をまとめて、など事業所によって異なります。また、一定期間をおいて支援の効果を判定する「モニタリング」も実施されるため、支援の効果を定期的に確認することができます。
支援の効果が見られない場合には、障害児相談支援事業所や保育所等訪問支援事業所に相談し、計画の見直しや変更をお願いしましょう。

支援提供の流れ 厚生労働省

保育所等訪問支援は障害児通所給付費の対象となる福祉サービスです。そのため、児童発達支援事業や放課後等デイサービスと同様、『通所受給者証』(自治体によっては『障がい児通所受給者証』など)を取得すると1割の自己負担でサービスが受けられます。前年度の所得により負担額の上限が決められているほか、生活保護を受給しているなどの条件によって様々な減免措置が受けられるため、利用する日数が多くても過重な負担金額が発生することはありません。 なお、島根県では、2019年10月1日から児童発達支援等の利用者負担が無償化され、保育所等訪問支援サービスも無償で受けられるようになりましたただし、期間は『満3歳になって初めての4月1日から3年間』です)。 島根県は県内の保育所等訪問支援等の事業所の一覧を公開しています。お住いの地域にどの事業所があるのかを確認してみましょう。

島根県内の保育所等訪問支援事業所の詳細はこちらを参照ください。

障害児の利用負担 厚生労働省
就学前障がい児の発達支援の無償化について 島根県
障害児通所支援事業所一覧 島根県

利用に際しての注意点

集団適応が主な支援

既に述べた通り保育所等訪問支援は、発達に関する問題の改善や発達障害の治療が目的ではなく、普段通所している場所での集団適応を支援するサービスです。そのため、個別の訓練やリハビリのような対応を求めることはできません。

利用申請は保護者から

保育所等訪問支援を利用するには、保護者からの申請が必要になります。保育園や幼稚園の職員が、子どもの行動が気になっても保護者の申請でなければ利用することはできません。
施設側が支援の必要性を感じた場合には、職員から保護者へ説明と相談をして利用申請をしてもらいましょう。
保護者に利用申請をいただけない場合、保育所などは「障害児等療育支援事業」、「巡回支援専門員整備」、教育センターが行う巡回相談や専門家派遣などを利用することができます。これらは施設側の要請で専門家が派遣されますが、利用にあたって保護者に十分な説明をしておくことで、今後の支援を家庭と協力しやすくなります。

その他の訪問支援事業との違い

専門家が訪問する事業には、都道府県などで行う地域生活支援事業に位置づけられている「障害児等療育支援事業」や市町村地域生活支援事業として「巡回支援専門員整備」などがあるほか、教育センターが行う巡回相談や専門家派遣などもあります。これらは園や学校の職員に対する助言や指導が目的であるため、子どもへの直接支援は行われません。
また、これらの訪問事業は自治体によって運営されているため、自治体によっては未整備であったり使用頻度が制限されたりすることがあります。
保護者と保育所等が話し合い、目的や使用状況に応じて保育所等訪問支援とその他の訪問支援事業とを組み合わせていくとよいでしょう。

園や学校の一部は受け入れに消極的なこともある

保育所等訪問支援は児童福祉法に定められたサービスです。利用は保護者の権利として保障されるため、受け入れ先の機関は断ることはできません。しかし残念なことに、福祉機関と教育機関の連携が十分とはいえないため、一部の園や学校では訪問支援員の介入に難色を示すことがあるようです。このような問題を解消するため、2012(平成24)年に厚生労働省と文部科学省は連名で「児童福祉法等の改正による教育と福祉の連携の一層の推進について」を全国の自治体に通知しています。これを受け、各市町村は教育委員会や学校長に制度の理解を求めていくことが求められています。

子どもへの説明を忘れずに

保育所等訪問支援は保護者の申請に基づいて支援員が保育所等に訪問します。事前に子ども本人にわかりやすく説明し、訪問支援に対する意向や考えを確認しておきましょう。
具体的には、あなたのためだけに保育園の先生ではない先生がやってきて、あなたの近くか少し離れたところであなたを見ていたり、時々活動に一緒に入ったりすることがあるけれど抵抗はないかを確認してみましょう。子どもの自尊心が低下していたり不適応感が強かったりすると「なぜ僕だけ?」「ダメな子だから?」と、消極的な反応を見せる場合があります。その際は「あなたが園でお友達と楽しく過ごせるようになってほしいから」「来月のお遊戯会に頑張って出られるように」と、保護者の思いや訪問の必要性を子どもにわかりやすく説明し、保育所等訪問支援が実施できるよう調整しておくことが望まれます。

島根県療育支援事業 島根県
教育と福祉の一層の連携等の推進について 厚生労働省 文部科学省
保育所等訪問支援の効果的な実施を図るための手引書 厚生労働省