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起立性調節障害

起立性調節障害(OD)とは?

起立性調節障害は、自律神経系の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患です。立ち上がった時に血圧が低下したり、心拍数が上がり過ぎたり、調節に時間がかかりすぎたりします。血圧が低下すると脳に十分な血液が送られず、めまいや手足のしびれなどの症状が起こることがあります。また、この疾患は自律神経疾患なので身体的要素以外に、精神的、環境的要素も関わって起こると考えられています。身体的要因のひとつとして、自律神経系が不安定になることが挙げられます。小学校高学年~中学生に多くみられますが、この時期は第二次性徴期とも重なり、体の様々な機能が大人へと変化していく時期です。この変化は自律神経系にも起こるため、循環器系の調節がうまくいかなくなることがあります。

午前中に症状が強くなりやすく、午後には軽快する傾向にあるため、周囲からはさぼっているように思われることがあります。注意しなければいけないのは、あくまでも体の病気であり、本人が頑張ればどうにかなるということではありません。

起立性調節障害の主な症状

起立性調節障害(OD)では起立時の静脈系の収縮反射が不良となり,下肢に血液が貯留することにより心臓への還流量が減少し,心拍出量と収縮期血圧が低下します。そのため、脳血流量が減少し、立ちくらみやめまい、吐き気といった「脳貧血」症状が出現したり、血圧が低下するため心拍数が増加し、動悸を感じたりします。症状は立位や座位で増強し、臥位にて軽減します。しかし重症では臥位でも倦怠感が強く起き上がれないこともあります。

症状は午前中に強く午後には軽減する傾向があります。夜になると元気になり、スマホやテレビを楽しむことができるようになります。夜に目がさえて寝られず、起床時刻が遅くなり、悪化すると昼夜逆転生活になることもあります。また、朝起きられないことから、不登校になる割合も多いことが知られています。起立性調節障害小児の3分の2が不登校で、不登校小児の約半数が起立性調節障害を合併していたというデータもあります。

起立性調節障害の4つのタイプ

鑑別のための検査を行い、新起立試験または連続血圧測定によりサブタイプを決定します。基本的サブタイプは以下の4つです。

①起立直後性低血圧(INOH)

起立直後の血圧低下からの回復に時間がかかるタイプ。
血圧回復時間が20~25秒で疑い、25秒以上で診断する。

②体位性頻脈症候群(POTS)

血圧の回復に異常はないが、起立後心拍の回復がなく上昇したままのタイプ。
心拍数増加≧35/分または起立時平均心拍数≧115/分で診断する。

③神経調節性失神(VVS)

起立中に急激な血圧低下によっていきなり失神するタイプ。

④遷延性起立性低血圧(Delayed OH)

起立を続けることにより徐々に血圧が低下して失神に至るタイプ。
起立3~10分で収縮期血圧が≧20mmHgまたは15%以上低下で診断する。

起立性調節障害の中で①、②が多く、③、④は少ない傾向にあります。しかし、①や②に引き続き③の神経調節性失神をおこしたり、経過中にタイプが変わったりすることもあります。

起立性調節障害の多い年代 (疫学)

  • 有病率:軽症例を含めると、小学生の約5%、中学生の約10%。重症は約1%。不登校の約3-4割にODを併存する。
  • 性差:男:女 1:1.5~2
  • 好発年齢:10~16歳
  • 遺伝や家族性:約半数に遺伝傾向を認める
  • 好発時期:4~7月頃

起立性調節障害の合併症

  1. 身体面:概日リズム睡眠障害(睡眠障害)、失神発作(けいれんを伴うこともある)、著しい頻脈
  2. 心理・行動面:脳血流低下に伴う集中力や思考力の低下、学業低下、長時間臥床など日常生活活動度の低下、長期欠席
  3. 発達障害やその傾向性を伴う学校不適応や不登校

起立性調節障害と似た病気

調節障害の症状は他の多くの疾患でもみられます。そのため、血液検査、画像検査など、症状にあわせて必要な検査を行い、他の疾患でないことを確認する必要があります。他の病気がみつかることもしばしばあり、時に、もやもや病やQT延長症候群などの命に関わる病気のこともあるので、しっかりと他の疾患を除外することが重要です。
鑑別疾患として、以下のものが挙げられます。

  1. 貧血
  2. 不整脈(発作性上室性頻拍,QT延長症候群,洞機能不全症候群,心室頻拍,心房細動)
  3. 心肺疾患(閉塞性肥大型心筋症,大動脈狭窄,原発性肺高血圧)
  4. 神経・精神疾患(脳腫瘍,脳炎,変性疾患,てんかん,うつ病,もやもや病)
  5. 胃潰瘍,十二指腸潰瘍
  6. 内耳障害
  7. 視力障害

起立性調節障害が疑われるとき、病院はどこを受診したらいい?

起立性両説障害は自律神経系の失調による血圧の低下が原因なので、循環器疾患に分類されますが、こうした身体的要素以外に、精神的、環境的要素も大きく関わっています。また、前述した鑑別すべき疾患は循環器疾患だけではないので、これらを除外するためにも小児科を受診しましょう。
心の問題が明らかな場合は、子どもも治療している精神科や心療内科を受診しましょう。

起立性調節障害は治るの?

日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療によって2〜3ヶ月で改善します。学校を長期欠席する重症例では社会復帰に2〜3年以上を要します。

起立性調節障害の治療と対処法

①疾病教育

  • 中等症や重症の多くは倦怠感や立ちくらみなどの症状が強く、朝に起床困難があり遅刻や欠席をくり返していますが、保護者の多くは、子どもの症状を「怠け癖」や、ゲームやスマホへの耽溺、夜更かし、学校嫌いなどが原因だと考えて、叱責したり朝に無理やり起こそうとしたりして、親子関係が悪化することが少なくありません。
  • 本人と保護者に対して、「ODは身体疾患である、「根性」や気持ちの持ちようだけでは治らない」と理解を促すことが重要です。

②非薬物療法(日常生活上の工夫)

  • 坐位や臥位から起立するときには、頭位を下げてゆっくり起立する。
  • 静止状態の起立保持は、1-2分以上続けない。短時間での起立でも足をクロスする。
  • 水分摂取は1日1.5-2リットル、塩分を多めにとる。
  • 毎日30分程度の歩行を行い、筋力低下を防ぐ。
  • 眠くなくても就床が遅くならないようにする。

③学校との連携

  • 学校関係者にODの理解を深めてもらい、OD児の受け入れ態勢を整える。

④薬物療法

  • 昇圧薬(ミドドリン塩酸塩)や自律神経調節薬(トフィソパム)、β遮断薬(プロプラノロール塩酸塩)などを使用する。薬物療法だけでは効果は少ないため、生活を規則正しくするなどの自律神経鍛錬療法などの非薬物療法を行ったうえで処方する。

⑤環境調整

  • 子どもの心理的ストレスを軽減することが最も重要です。保護者、学校関係者がODの発症機序を十分に理解し、医療機関―学校との連携を深め、全体で子どもを見守る体制を整えましょう。

⑥心理療法

日本小児心身医学会では『専門医向け小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2011』を示し、コンサルト(相談・紹介)の適応を以下の3点として示しています。

  • 一般外来向けのガイドラインに沿って診療を行い、4週以上の治療を行ったが改善しない子ども。
  • OD症状があり、すでに1か月以上の不登校やその傾向が続いている子ども。
  • 精神科に通院中で、治療を行っても身体的不調が続いている子ども。

子どもが起立性調節障害と診断されたら、どんなことに気をつけたらいい?

①生活リズムを整える

夜更かしや長時間の昼寝による不眠により自律神経が乱れてしまうので、まずは就寝や起床の時間を一定にし、自律神経を整えるようにしましょう。また、起立時の血圧調節機構を維持するためにも、昼間に長時間横になることは控える必要があります。夜に眠れない場合には、無理に寝ようとせず起床時間を一定にするようにしましょう。
睡眠サイクルを一定にする他、朝ご飯をしっかり食べることで1日に必要なエネルギーを摂取し、生活リズムを整えるようにしましょう。

②十分な水分・塩分をとる

起立性調節障害では起立時の血圧低下が原因となるので、体内の水分量が十分でないと、より血圧の調節が難しくなります。目安としては、食事以外に2Lの水分と、食事を通して10gの塩分です。1日3食、おいしいと感じる味がついている食事をすれば1日7g程度の塩分は摂れていますが、起きられずに朝食を抜かしてしまうとその分不足してしまうので、意識的に塩分を摂るようにしましょう。

③起立するときはゆっくり立ち、長時間の起立はできるだけ避ける

起立性調節障害の子どもは立ち上がるときの調節が苦手なので、急に立たずにゆっくり立ち上がり、うつむきながら起立して最後に頭を上げるようにします。急に立ち上がると調節機能が間に合わず、脳に必要な血液がいかず転倒してしまう危険性があるので注意しましょう。
また、長時間同じ姿勢で起立していると下半身に血液がたまり、頭の血液が不足がちになります。できるだけ避け、どうしても立っている必要があるときには、足を動かしたり、クロスさせたりしましょう。下半身にたまっていた血液を筋肉で押し戻すことができます。

④ストレスコントロールをする(周囲の協力が重要です)

起立性調節障害は自律神経系の病気で、自律神経系は心の影響を受けやすいので、ストレスは症状悪化の大きな要因になります。症状がひどく学校に行けないことを子どもたちは非常につらく感じています。その苦痛を理解し、頑張っていることを評価することがとても重要です。「午後からなら登校できる、行事や部活動なら行ける、遊びになら行ける」などは体調が万全でないときの起立性調節障害の子どもには良くあることです。決して怠けていたりさぼっていたりしているわけではないので、子どもを責めないようにしましょう。周囲の協力と理解が症状の改善に繋がります。

参考資料
日本小児心身医学会  http://www.jisinsin.jp/detail/01-tanaka.htm
恩賜財団済生会  https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/od/
・今日の診療
「起立性調節障害(藤田之彦(あしかがの森足利病院・院長(栃木))」
「起立性調節障害(鮎沢 衛(日本大学准教授・小児科学))」
・レビューブック小児科2019-2020 p178