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知的障害と聞くと、知能が低下していることで社会的な自立が難しい障害と思われることが少なくありません。しかし、知的障害の程度や当人のおかれた環境に応じた支援を講じることで、親元を離れて生活することも可能になります。この記事では知的障害について解説し、支援についても触れていきます。

※知的障害は、以前は精神遅滞という用語が使用されていましたが、否定的な意味があるとの指摘から、現在では2013年に発行されたアメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル第5版』にならい、『知的発達症』か『知的能力障害』という用語が使用されることになりました。以下からは『知的能力障害』を使用します。

知的能力障害とは

知的能力障害とは、小児期早期に知的機能と適応機能に困難をきたす障害です。重症度によって軽度、中等度、重度、最重度に分類されます。以前は、知能検査による知能指数が重症度の判断指標でしたが、現在では知能指数だけで判断するのは不十分とされ、適応機能も併せて総合的に判断されることになりました。
知的機能は、目的的に行動し、合理的に思考し、その環境を効果的に処理する能力を言い、推論、問題解決、抽象的な思考、教育や経験からの学習などがあります。
適応機能は、個人的、社会的な充足を満たすのに必要な日常生活における適応行動を言い、身辺自立、地域参加、余暇活動、対人関係、コミュニケーション、運動などがありますが、年齢や社会文化的な基準によってそれらの内容は変わってきます。
例えば、知能検査で知的機能の低下が軽度であったとしても、生活に多くの支援が必要であれば適応機能は低いと判断され、知的能力障害の重症度も高くなります。
知的能力障害の指標となるIQ70未満の人口は全人口の約3%、重度の知的能力障害は全人口の約1%となります。

知的障害児(者)基礎調査 厚生労働省
知的障害(精神遅滞) e-ヘルスネット 厚生労働省

知的能力症の特徴

アメリカ精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル第5版』では、知的能力障害の重症度によって見られる特徴を、下記の適応行動領域ごとに提示しています。

概念的領域:学習や抽象的思考などに関連する概領域
社会的領域:コミュニケーションや対人交流などに関する領域
実用的領域:身辺自立、移動、金銭管理、余暇活動などに関する領域

例えば、軽度の知的能力障害の場合、読み書きや計算、時間や金銭の管理において、多少の支援が必要になることがあります。抽象的思考が難しため、授業内容が高度になる小学校中、高学年以降に授業についていくことが難しくなるかもしれません。対人場面では、コミュニケーションが同世代の人よりもやや未熟で、紋切り型になってしまったり、気持ちや行動をコントロールしたりすることが難しい場合があります。歯磨きや入浴など、よく慣れた身辺自立活動は同世代の人と同様に可能ですが、軽量が必要な料理など複雑な活動になると、若干の支援が必要になることがあります。
中等度の場合、言葉の遅れやコミュニケーションの問題などから、乳幼児の早期に気づかれます。読み書きや計算などは徐々に伸びていくものの、成人に至っても小学校低学年ほどにとどまることが少なくありません。軽度の知的能力障害が適宜の支援で生活できることが多いのに対し、一日の多くの時間を継続的に支援することが必要になることが多いです。人間関係は家族や友人などの関係を維持できますが、職場などでの人間関係はかなりの支援が必要になるでしょう。食事、排せつなどの基本的な身辺自立活動は、長期間の指導と活動により可能になります。金銭管理や責任の履行などはかなりの支援が必要になります。
重度の場合、言語や運動の発達に遅れがあることで乳幼児の早期に気づかれることが少なくありません。読み書きや理解はかなり難しく、コミュニケーションは単語で要望を伝えられるにとどまることが多いようです。食事や身支度などの活動にも支援を要することが多く、生涯にわたって継続的に支援することが必要になります。
最重度の場合、言語、運動面の発達に著しい遅れがあり、感覚障害を伴うことあります。物を使用できることもがありますが、その物理的な特徴をいじったり動かしたりすることにとどまります。言葉や身振りでのコミュニケーションは非常に限定され、対人交流はよく知った家族や支援者に限られることが多いです。日常生活に限らず、安全や健康の管理においてもかなりの支援が必要となり、自傷などの不適応行動が出現することもあります。

診断と治療

知的能力障害は、症状が重い場合、言葉の遅れや着替えや食事が上手にできないなど、幼児期早期に気づかれることがあります。しかし症状が軽いと会話や日常生活は時間をかけて習得されるため、知的能力障害に気づかれにくく、小学校になってから学習のつまずきや集団行動ができないことで気づかれることもしばしばです。また、知的機能の低下による適応困難のために、不安や多動などの情緒の問題が先に現れ、これをきっかけに知的能力障害がわかることもあります。
診断は、まず原因疾患がないかを調べます。知的能力障害の原因には、染色体異常、遺伝性の代謝疾患、中枢神経系の疾患など様々なものがあります。
出生前の原因としては、薬物や毒性物質にさらされることで、知的能力障害が引き起こされることがあります。このような状態で最もよくみられるものとして、妊婦が飲酒で摂取したアルコールが胎盤を通過し、胎児に発育遅滞や器官形成不全などを生じる胎児性アルコール症候群があります。
周産期には、妊娠の重度低栄養状態、新生児仮死に関連する合併症、極および超低出生体重児は、知的能力障害となる可能性が高くなることがあります。
出生後には、低栄養状態、脳炎や髄膜炎、事故などによる頭部外傷だけでなく、劣悪な環境による子育て(身体的、情緒的、認知的支援の欠如)によっても知的能力障害となることがあります。
知的能力障害の原因疾患を特定することは難しく、また、特定できてもそれを治療することはとても困難です。しかし、原因疾患を特定することで、医師はその後の経過を予測することができるようになり、今後の対策を検討することができるようになります。
原因疾患を調べる検査とあわせて、知能テストを実施することが一般的です。知能テストについては こちらを参照ください。

現代の医学をもってしても、知的能力障害そのものを根本的に治療することは難しく、医療だけでなく教育や福祉など様々な支援によって適応機能を向上させることが必要です。
教育では、特別支援学校や特別支援学級で、知的能力障害のある児童生徒への教育が行われます。授業の内容は児童生徒の知的障害の状態を想定し、卒業後の進路や生活に必要と考えられる資質・能力等を考慮して整理されます。
福祉では、療育手帳を取得することで、様々な支援を受けられるようになります。また、グループホームや成年後見人制度を利用することで、親元を離れて生活することも可能になります。

特別支援教育についてはこちらを参照ください。
療育手帳についてはこちらを参照ください。
グループホームや成年後見人制度についてはこちらを参照ください。

親亡き後を考える

比較的重度の知的能力障害において、成人しても親と同居することが多く、同居率は身体障害者や精神障害者に比べて高いことが知られています。また、知的能力障害においては、家族が同居しているだけでなく、親がケアの提供者になっていることが特徴でもあり、親が亡くなった後の生活が問題となります。
地域に知的能力障害児者の生活場所や制度が少ないだけでなく、保護者が子どもをグループホームなどに入所させることに「見捨てるような感じがする」「責任を放棄している気がする」とためらってしまい、『親が生きているうちは一緒に生活をして、亡くなってからは施設へ』と考える方もおり、いざそのような事態になったときには子どもの社会適応が非常に困難になっていることが少なくありません。
入浴や食事などの日常生活を自分で行うこと、意思決定できることだけが自立ではありません。成長とともに変わる自分の生活を受け入れられることは知的能力障害児者にとって立派な『自立』となります。同様に、我々大人も狭い自立観から解放されることも必要な『自立』と言えるかもしれません。

障害者の状況等 内閣府
全国手をつなぐ育成会連合会
親なきあと相談室

参考文献

渡部伸 障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて Amazon
森口弘美 知的障害者の「親元からの自立」を実現する実践 Amazon