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薬物療法

発達障害への支援方法に薬物療法があります。薬物療法により一定の問題行動は収まりますが、発達障害そのものを治療することはできません。治療が目的ではないのになぜ薬が必要なのでしょうか。
この記事では発達障害への薬物療法について解説していきます。

発達障害に対する薬物療法の位置づけ

発達障害の子どもへの支援は、まず環境調整をすることにあります。

・教室の席を一番前にしたり掲示物を取り除いたりすることで、黒板以外の刺激に気が逸れないようにする。
・これまでの経過からわかっている対人トラブルになりやすい状況には、事前に子どもに対処方法を教えておく。
・不安が強くなって教室から飛び出したくなる時には、保健室に行く。
・指示は具体的な内容にして伝える。 など

このような環境調整を講じてもなお学校や家庭での生活が広範囲にわたって難しく、その質を著しく損なっていたり、自分や相手に対して事故や怪我を防止することが困難であったりする場合に薬物療法が検討されます。
癇癪を起す、興奮しやすい、他人に危害を加えるなどの外在化問題に対して薬物療法は実施されるだけでなく、過度に不安で活動に参加できない、抑うつ気味で活気や興味が乏しい、睡眠に問題が出ているなどの内在化問題にも薬物療法は適用されます。
外在化問題は大人の目につきやすいため薬物療法が要望されやすいのに対し、内在化問題は目につきにくく、ともすれば『問題を起こさないおとなしい子ども』とみなされてしまい、薬物療法も含めた適切な支援から漏れやすいため注意が必要です。

発達障害への薬物療法は、発達障害の症状を抑えることが目的であり、発達障害そのものを治療することはできません。
例えば、自閉スペクトラム症では、想像することが難しくて物事の見通しがわかりにくい状況や内容には強い不安を抱きやすい特徴があります。薬物療法は不安を改善するのみであり、自閉スペクトラム症の中核症状である『想像の困難』を治療することはできません。注意欠如多動性障害(ADHD)に対する薬物療法は、中核症状である不注意や多動衝動に効果を発揮しますが、それでも中核症状を根本的に治すことはできません。

では、治療ができないのになぜ薬物療法が必要なのでしょうか。
一つは、薬物療法によって安定した状態で環境調整や教育・療育を実施し、その効果を得やすくすることが目的となります。例えば、注意欠如多動性障害(ADHD)では、多動衝動のために支援の内容が入りにくいことがありますが、薬物療法によって多動衝動が落ち着いた状態で支援をすると指示内容が理解しやすくなり、支援が効果的になることがあります。
そして、もう一つの理由にして最大の目的に、子どもの自尊心(自信)を高めることがあります。当然のことながら、薬物療法によって直接的に自尊心(自信)を高めることはできませんが、薬物療法によって、指示が理解しやすくなったり、衝動的に友達に手が出るのを抑えられるようになったり、不安や抑うつ気分が改善して積極的になったりすることで、二次的に自尊心(自信)を高めることができるのです。

ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療 e-ヘルスネット 厚生労働省

使用されるお薬

発達障害に対して使用される主なお薬には以下のようなものがあります。

抗ADHD薬

注意欠如多動性障害(ADHD)はドパミンやノルアドレナリンなどの脳内伝達物質の不足などによっておこるとされます。抗ADHD薬は、脳内の神経伝達の機能を改善することで、注意力散漫や多動衝動性などの症状を改善します。
抗ADHD薬には中枢神経刺激薬と非中枢神経刺激薬とがあり、中枢神経刺激薬は依存リスクに対処するため、2019年よりADHD適正流通管理システムによって流通が厳格に定められることになりました。具体的には、ADHD適正流通管理システムに登録をしている医師のもとでのみ処方が可能となり、調剤する薬剤師や処方をうける患者も登録が必要になります。

抗精神病薬

統合失調症、感情障害に対して処方される抗精神病薬が、「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性」への処方も可能となり、保険診療での使用が認められました。
具体的には、自閉スペクトラム症に伴うかんしゃく、攻撃性、自傷行為、またはこれらの複合行為の行動障害(易刺激性)に対して使用されます。

抗うつ薬

抗うつ薬の種類にはSSRI、SNRI、三環系抗うつ薬がありますが、最近はSSRIやSNRIが主流になっています。強迫的なこだわり、抑うつ、不安障害などに使用されます。

抗てんかん薬

てんかんに対するお薬ですが、気分変調、躁うつ、イライラなどにも適用されます。

小児神経科医がお答えします!「Q:発達障害の子どもにはどういう薬が用いられるのでしょうか?」 一般社団法人日本小児神経学会

薬物療法に関する不安

副作用は?

薬物療法で最も気になるのは副作用でしょう。子どもに対して使用するとなるとなおさらです。副作用は薬によって異なり、服用する子どもの体質によっても異なりますが、医師の指示の通り用法用量を守って服用すれば、重篤な副作用は防ぐことが可能です。

いつまで服用するの?止め時は?

発達障害に対する薬物療法が発達障害そのものの完治を目指すものではないため、不適応状態が強い場合には長期間の服用が必要になることがあります。しかし、成長とともに発達障害の症状が落ち着いてきたり、適応的な環境になったりすることで薬物療法の必要性は低くなっていきます。
例えば、注意欠如多動性障害(ADHD)は、成長とともに多動衝動が落ち着いてくることが少なくありません。また、自閉スペクトラム症では、対人交流場面を知識として蓄積したり、同じ価値観の集団に所属したりすることで問題行動が収まることがあります。

子どもが服用を嫌がる

子どもが服用を嫌がる理由として以下のようなものがあります。
・副作用が辛い
お薬によっては吐き気や眠気の副作用が出ることがあります。主治医と相談し、用量やお薬の変更を検討してもらいましょう。
・『薬を飲むこと』に対するネガティブなイメージ
子どもにとって薬を飲むということは、多かれ少なかれ、自分に何らかの問題があるということを感じ取ってしまうものです。子どもが服薬に抵抗を示す場合には、まずは子どもの話を聞きましょう。大人が一方的に薬の必要性を説明するほど、子どもにとっては「自分に問題があるから」ととらえられてしまいます。子どもの話をじっくり聞くことで、子どもがどのような生活を送りたいか、これに関してどのようなことが問題になっているかを一緒に考え、お薬の要否を子どもと一緒に検討することが大切です。
子どもが服用を決定した場合、大人の支援が必須です。それは単に大人が子どもの服薬を管理することではありません。大人の対応によって子どもは服用に対する態度を肯定的にも否定的にも変えていきます。例えば、子どもが問題行動を起こすたびに薬の増量や変更を求めることは、子どもの目には『ペナルティ』と映りかねません。また、子どもが問題行動を起こしていないことを「薬が効いている」と判断することは、子どもの成長や努力を軽視することでもあり、発達障害に対する薬物療法の最大の目的である『自尊心(自信)の回復』にはつながりません。
お薬を使いながら学業、対人交流、社会活動などに取り組む子どもの努力を認めてあげることで、子どもは薬を自発的に管理できるようになっていきます。

その他

服薬しても問題が改善しないからといって、服薬を自己中断したり他の医療機関を受診したりすることに利点はありません。問題が変わらないことを主治医と相談し、適切なお薬を検討していく作業をしましょう。