

一人で暮らすための支援
「わが子には障害があるから自立は難しいと思う」「周囲に負担をかけるので私(親)が元気なうちは見てあげたい」と保護者は、わが子の自立に不安を抱くものです。
障害を持つ子どもの自立に関し、不安を解消するのは容易ではありません。様々な制度を親の体力のあるうちに試してください。そうすることで、親亡き後の子どもの自立は確実になっていきます。
この記事では、発達障害に限定せず、どのような支援があるかを紹介していきます。
障害支援区分とは
障害者総合支援法に定められている障害福祉サービスには、大きく分けて介護給付と訓練給付があります。介護給付は障害支援区分の認定が必要になります。訓練給付は障害支援区分の認定がなくても利用可能ですが、施設側の加算要件のために障害支援区分の把握が必要になることがあります。
障害支援区分は、障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合を総合的に示すものであり、区分1~区分6で認定されます。この障害支援区分によって、受けられる介護給付サービスの目安が下記の通り異なります。
サービスの種類 |
非該当 |
区分1 |
区分2 |
区分3 |
区分4 |
区分5 |
区分6 |
|
訪問系 |
居宅介護(ホームヘルプ) |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
重度訪問介護 |
× |
× |
× |
× |
▲ |
▲ |
▲ |
|
同行援護 |
▲ |
▲ |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
|
行動援護 |
× |
× |
× |
▲ |
▲ |
▲ |
▲ |
|
重度障害者等包括支援 |
× |
× |
× |
× |
× |
× |
▲ |
|
日中活動系 |
短期入所(ショートステイ) |
× |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
療養介護 |
× |
× |
× |
× |
× |
▲ |
▲ |
|
生活介護 |
× |
× |
▲ |
〇 |
〇 |
〇 |
〇 |
|
施設系 |
施設入所支援 |
× |
× |
× |
▲ |
〇 |
〇 |
〇 |
障害福祉サービスを利用したい方は、自治体の窓口に申請をします。調査員による認定調査、主治医の意見書をもって、自治体が認定区分の判定を進めていきます。詳細は『申請から支援決定の流れ 松江市』を参照ください。
障害福祉サービスの利用について 全国社会福祉協議会
障害支援区分 厚生労働省
障害福祉サービスの内容 厚生労働省
障害福祉サービス一覧 松江市
申請から支給決定までの流れ 松江市
共同生活援助(グループホーム)とは
共同生活援助(通称:グループホーム)は、障害福祉サービスの訓練給付の一つです。
施設ではなく地域で生活を希望する障害のある方たちが、一軒家、アパート、マンションなどの住居で共同生活をするための支援です。
共同生活援助(以下 グループホーム)の形態によって異なりますが、入浴や排せつ、食事の介助などをする生活支援員、掃除、洗濯、食事作りなどの家事支援や日常生活の相談に応じてくれる世話人が配置されています。
グループホームには共同の居間、浴室、食堂があり、職員の支援をうけて日常生活を行うことができます。また、各利用者には個室が完備されており、集団生活の中で個人の生活を送ることができるのです。
グループホームの対象者
(1)障害種と障害支援区分
障害の種別は問わず、知的障害、身体障害、精神障害だけでなく、難病をお持ちの方も利用可能です。障害支援区分の認定は不要であるため、障害の程度に関わらず利用が可能です。ただし、運営者に加算要件を算出する必要があるほか、グループホームによっては障害支援区分を限定していることもあるため、障害支援区分の認定を受けておくことは必要です。
(2)対象年齢
原則18歳以上とされます。それ未満では児童福祉法の対象となり、児童福祉法関連の入所支援となります。ただし、児童相談所所長が認めれば15歳以上からでも利用可能になることがあります。
身体障害者の場合は、65歳の前日までに障害福祉サービスやこれに準ずるものを利用した方であれば65歳を過ぎても利用が可能になります(※)。
※65歳を超えると障害福祉サービスではなく介護保険制度の対象となります。介護保険制度にもグループホーム制度がありますが、認知症の方を対象としているため認知症の診断がないと利用ができないのです。
認知症グループホームとは? 公益社団法人日本認知症グループホーム協会
(3)想定される対象者像
・単身での生活は不安があるため、一定の支援を受けながら地域の中で暮らしたい方
・一定の介護が必要であるが、施設ではなく地域の中で暮らしたい方
・施設を退所して、地域生活へ移行したいがいきなりの単身生活には不安がある方
などが想定される対象者像となります。
介護給付の施設入所支援と異なり、グループホームの利用者は支援を受けながら自立した暮らしを目指していくため、グループホームで生活しながら、日中は職場に行ったり、就労移行支援や地域活動支援センターなどを利用したりします。
共同生活援助(グループホーム) ※訓練給付 独立行政法人福祉医療機構
施設入所支援 ※介護給付 独立行政法人福祉医療機構
(4)グループホームの四形態
グループホームには以下の四形態があります。
・介護サービス包括型
主に夜間や休日において介護が必要な人のためのグループホームで、生活支援員や世話人が食事や入浴、排せつなどの介護サービスを提供します。
・外部サービス利用型
日常生活上のサポートは事業所の職員が行い、入浴などの介護は事業所が委託している外部の介護事業者が行います。
上記二つは事業所内の職員でサービスが提供できるかどうかが異なります。介護サービス包括型は事業所の生活支援員が介助を担当するため、外部の支援員がやってくる外部サービス利用型よりも支援を行いやすくなります。そのため、障害支援区分の高い人が利用対象となることが一般的です。
・日中サービス支援型
昼夜を通じて日常生支援や介護を行います。
多くは施設入所支援のための施設が併設されているため、24時間の支援体制が可能となります。
・サテライト型(ひとり暮らし)
利用者はグループホームの共同空間や食堂などを利用しながら、近くに借りた自分のアパートで生活を行うものです。ほとんどひとり暮らしに近い生活を送ることができます。また、職員が定期的に利用者のアパートへ巡回訪問を行っているため、アパートでの生活困難を軽減することができます。
ただし、一般住宅などへの転居が目的とされるため、利用期間に原則2年の期限があります。
共同生活援助(介護サービス包括型・外部サービス利用型・日中サービス支援型)に係る報酬・基準について 厚生労働省
(5)利用料金
グループホームは障害福祉サービスの利用料がかかります。利用料は原則1割負担ですが、収入状況に応じた利用者負担の上限額が定められています。
費用は受給している障害年金などで賄われるように調整されますが、費用はグループホーム利用料の他に、光熱費や食費が別途必要になるだけでなく、本人の楽しみである嗜好品や趣味などの費用も必要になるため注意が必要です。
国はグループホームの利用者へ家賃助成を行っていますのでこちらも利用するとよいでしょう。
障害者の利用者負担 厚生労働省
グループホーム・ケアホーム利用の際の家賃助成に係るQ&A 厚生労働省
自立生活援助
(1)支援内容
自立生活援助は、障害福祉サービスの訓練給付の一つです。施設入所支援やグループホームを退所して一人暮らしを始めた障害者に対し、定期的な巡回訪問、連絡要請を受けての訪問、相談支援などによって、障害者が地域において自立した日常生活、または社会生活を営むことができるように支援するサービスです。
相談できる内容は、炊事や洗濯などの家事に限らず、体調管理、医療機関との連絡調整、家賃や公共料金の支払いの確認やその他の金銭管理、近所づきあいの相談にも対応します。
(2)想定される対象者
・施設入所支援、グループホーム、精神科病院を退所・退院して、地域での一人暮らしを開始した障害者で、理解力や生活力などに不安のある方。
・現在一人暮らしをしているが、家族の死亡や入退院の繰り返しなどの影響によって、一人暮らしや地域生活を継続することが困難であると認められる方。
・家族による支援が見込めない(例:同居する家族が障害や疾病をもつ、障害者同士の結婚など)ため、実質的に一人暮らしと同様の状況であると考えられる方。
(3)利用料金
障害福祉サービスであるため、原則1割負担の利用料が必要になります。収入状況に応じた利用者負担の上限額が定められています。
(4)利用期間
長期間にわたってサービスが提供され続けるのを回避するため、標準利用期間として1年間が設定されています。標準利用期間が終了した場合は、原則、サービスの利用は終了となります。ただし、標準利用期間では十分な成果が得られず、かつ引き続きサービスを提供することによる改善効果が具体的に見込まれる場合に限り、標準利用期間を超えて最大1年間の更新(原則1回)が可能です。
自立生活援助事業所 独立行政法人福祉医療機構
自立生活援助、地域相談支援(地域移行支援・地域定着支援)に係る報酬・基準について 厚生労働省
日常生活自立支援事業
既に紹介した『自立生活援助』と用語が似た『日常生活自立支援事業』があります。
(1)支援内容
認知症高齢者、知的障害者、精神障害者などのうち、判断能力が不十分な方が地域において自立した生活が送れるよう、社会福祉協議会などと契約をして、福祉サービスの利用援助などを行います。具体的には以下のような支援をします。
・預金の払い戻し、預金の解約、預金の預け入れの手続等利用者の日常生活費の管理(日常的金銭管理)
・定期的な訪問による生活変化の察知
・苦情解決制度の利用援助
・住宅改造、居住家屋の貸借、日常生活上の消費契約及び住民票の届出等の行政手続に関する援助
(2)想定される対象者
障害福祉サービスではないため、自治体による障害支援区分認定は不要あり、障害者手帳などの取得も不要です。
障害種別は問われず、判断能力が不十分であるために情報の入手、意思表示、判断が困難な人が対象となります。
利用者の例としては以下のようなものがあります。
・福祉サービスの手続きがわからないので手伝ってほしい
・重要な書類をなくしやすいので預かってほしい
・支払いや振り込み、ATMの操作などお金の管理を手伝って欲しい
・預金通帳や印鑑などを失くすのが怖いので預かってほしい など
(3)利用方法
原則、本人から市町村の社会福祉協議会へ利用申請します。利用申請を受けた市町村の社会福祉協議会は、申請者の生活状況の把握を行い、支援計画を策定して契約を締結します。
相談、サービスの利用を希望される方は、市町村の社会福祉協議会に問い合わせましょう。
(4)利用料金
サービスを利用するたびに必要な料金、サービス内容に応じた月額を利用契約を結んだ事業所に支払います。障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスではないため1割負担などの負担軽減措置はありません。
(例)島根県社会福祉協議会ホームページより
福祉サービスの利用援助、 日常的金銭管理サービスの利用料金 |
1時間あたり1,200円 ・1時間を超える場合、30分ごとに600円の加算 ・生活支援員が手伝いをする時にかかる交通費は実費負担 |
書類等の預かりサービスの利用料金 |
標準月額200円程度 ・貸金庫を利用する場合は実費負担 |
日常生活自立支援事業 厚生労働省
日常生活自立支援事業 業務概要 島根県社会福祉協議会
日常生活自立支援事業 島根県社会福祉協議会
障害者の一人暮らしを支えるその他の制度
〇成年後見制度・任意後見制度
知的障害や精神障害によって判断や意思表示が難しくなる場合には、成年後見制度・任意後見制度を利用することができます。
障害者本人の行為を一部制限し、本人に代わって法律行為をする人(後見・保佐・補助)が、金銭管理、住居の契約、福祉サービスの契約などをする制度です。
本人の判断能力に応じて、援助者は後見・保佐・補助のいずれかに選ばれ、本人の行為をどこまで取り消すことができるか、本人に代わってどのような法律行為を実行できるかが変わります。
『後見』制度を利用した事例を見てみましょう。
本人は2年前に統合失調症を発症し、半年前から幻覚や妄想等の症状が悪化したため、入院しています。本人の家族構成は母一人子一人であったところ、その母が2か月前に死亡しました。唯一の親族である叔母は、引き続き本人が生活に必要な医療や福祉サービスを受けられるようにしたり、本人が亡母から相続した自宅の登記手続や自動車の処分等を行えるようにしたりするため、後見開始の審判の申立てをしました。 家庭裁判所の審理を経て、本人について後見が開始されました。そして、叔母は遠方に居住していることから成年後見人になることは困難であり、後見事務として、不動産の登記手続等が想定されたことから、司法書士が成年後見人に選任されました。 本人は,退院後は住み慣れた自宅で引き続き生活をしたいという意向を有していたため、成年後見人は、その意向を尊重し、自宅は売却せずに、維持費のかかる自動車だけを売却することにしました。(成年後見制度・成年後見登記制度Q&A 法務省より) |
上記の事例の通り、成年後見制度は親族だけでなく、親族以外の第三者である専門家も担うことができます。財産の横領や不要な契約など、成年後見人による不正を監視するための制度も整備されており、他人にお金の管理を任せることに抵抗がある保護者にも安心して活用できる制度といえるでしょう。
成年後見制度に関する相談窓口は成年後見センターがあります。是非ご利用ください。
成年後見制度・成年後見登記制度Q&A 法務省
島根県内の成年後見センター 一般社団法人島根県社会福祉士会
〇福祉型信託
信託法には『福祉型信託』という用語や規定はありませんが、投資信託などの営利目的の『商事信託』と区別するために『福祉型信託』という用語が使用されます。
福祉型信託の具体例としては、障害のある子どもを育てる保護者(委託者)が、親類や金融機関など(受託者)と契約を交わしておき、保護者が病気、障害、死亡の時に、受託者によって子どもへの財産活用・管理が適切に行われるようにする制度です。
信託の方法には特定贈与信託、遺言代用信託など様々なものがあります。
なぜ福祉型信託を利用するのでしょうか。
実は、成年後見人制度では、あくまでも財産権は成年被後見人(ここでいう障害のある方)にあります。そのため、成年被後見人の事理弁識能力(いわゆる判断力)が著しく低下している場合では、成年被後見人に代わって財産を管理・処分することが難しくなることがあるのです。一方、信託制度を活用すると、財産権は委託者(保護者)から受託者(親類や金融機関など)へ移転することができるため、財産の管理や処分が円滑になるのです。
信託について 一般社団法人信託協会
特定贈与信託 一般社団法人信託協会
遺言代用信託 一般社団法人信託協会
福祉型信託の基礎知識 親なきあと相談室
この記事で紹介した支援や制度はほんの一部です。インターネットの普及である程度、調べやすくなったとは言え、知らない制度や用語は検索することはできず、支援や制度に関する情報を自分一人で収集することは大変困難です。まずは、自治体や障害者団体が定期的に行っている制度の説明会などに参加し、どのような制度があるのかを知ることから始めてみましょう。
参考文献
渡部伸 (2020). まんがと図解でわかる障害のある子の将来のお金と生活 自由国民社
渡部伸 (2020). 障害のある子の住まいと暮らし 主婦の友社