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進学先での支援

この記事では高等教育に進学するにあたっての支援について解説します。
なお、この記事の対象となる進学先は『高等教育=大学(院)、短大、専門学校など』です。高校は『後期中等教育』に分類され、この記事では扱っていません。

基本的な理念

日本が2007(平成19)年に署名した障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)では、第24条の1には、障害者の教育について下記の通り明記されています。

第24条1
締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する。当該教育制度及び生涯学習は、次のことを目的とする。

障害者の権利に関する条約 外務省

この署名に従って、日本は国内の障害者施策を改革していきます。
2011(平成23)年に障害者基本法が改正され、第1条に記載されていた本法の目的が『障害者の福祉の増進』から『全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互の人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現する』へと変わりました。
教育に関する内容を定めた第16条の1でも次のようになりました。

第16条1
国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため、可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ、教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。
障害者基本法 e-GOV法令検索

つまり、義務教育である小・中学校に限らず、幼稚園などの就学前教育、後期中等教育、高等教育を受ける権利や機会を保障し、かつ、障害をもたない生徒と共に教育を受けられるような配慮を法律は求めているのです。このことは、

・障害を持つ学生を一定数以上入学させなければならない(定員確保)
・障害を持つ学生は許容的に入学させる(評価基準の緩和)

といったものではありません。

障害を持つ学生が受ける入学試験の内容は障害のない学生と同じですし、入学してからのテストやレポート提出などの評価内容も同じです。ただし、障害特性によって十分に能力を発揮できないと認められた場合は、障害によって低下している部分に対して条件や手段の変更が認められます。これを『合理的配慮』と言います。詳細はこちらを参照ください。
例えば、手指の障害によって筆記に時間を要する場合、試験時間の延長が認められることがあります(もちろん、試験内容は障害のない学生と同じであるため、入学基準に至らなければ不合格となります)。
このことは、学生としては障害を持っていても十分に学業を修めることができるということだけでなく、高等教育機関としても優秀な学生を広く募集することができるということでもあるのです。
独立行政法人日本学生支援機構が行った調査では、大学、大学院、短期大学、専門学校などに通う障害を持つ学生の数は年々増加しており、2019(令和元)年5月1日現在で37,647人(全学生数の1.17%)となっています。今後も障害を持つ学生の進学率は上昇することが予想され、障害の有無に関わらず高等教育機関で教育を受けることは当たり前になっていくでしょう。

令和元年度障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書 独立行政法人日本学生支援機構

支援の時期、支援部門ごとの内容

独立行政法人日本学生支援機構が発行している『教職員のための障害学生修学支援ガイド(平成26年度改訂版)』の15~17ページに記載されている『学内支援体制』と『組織フローチャート』を見てみると、進学に関する支援の時期には『入学までの支援』と、入学後の『学習支援』『学生生活支援』『就職支援』の4つがあり、それぞれの時期に必要な支援がどの部門で受けられるかがわかります。
以下からは『入学までの支援』と、学習支援と学生生活支援を中心にした『入学後の支援』に分けて説明をしていきます。

教職員のための障害学生修学支援ガイド平成26年度改訂版〈共通〉 独立行政法人日本学生支援機構

入学までの支援

進学の理由を明らかにしよう

最初に『高等教育機関に進学する理由は?』を明らかにしておきましょう。
高等教育進学の理由には「専門的な勉強をしたい」「幅広い教養を身につけたい」などの理由から「すぐに社会にでるのは不安だから」「大卒の資格がほしいから」といった理由まで様々です。
進学理由に良し悪しはありませんが、「周りの人が進学するからなんとなく」「親が勧めるから」といった理由で進学すると、学校から要請される課題と進学動機にミスマッチが生じてしまい、学生生活を続けることが困難になることがあります。また、卒業までにかかる学費や時間も小さくありません。
「どの大学に進学したいのか?」だけでなく「なぜ大学に進学するのか?」を、在籍する高校の進路指導担当者に相談したり、進学に関するサイトで同じ悩みをもつ学生の声を参考にしたりしてもよいでしょう。

進路を考える時の高校生の気持ち 文部科学省
大学進学を考えているあなたに 高校生の進路相談

志望校を見つけよう

「大学や専門学校に進学したい」ときまったら、次は志望校を探していきましょう。専攻する学部や授業内容・方法だけではなく、障害学生の支援に力を入れているかどうかもポイントにしてみましょう。以下の内容などをホームページ等で確認するとよいでしょう。

(1)障害のある学生の受け入れ方針
障害のある学生に対する学校の基本的な方針です。
基本的に学生は支援を申し出にくいものですが、学校が支援の提供を積極的していることを表明することで、学校全体の風土として支援要請をしやすくなったり、支援を提供しやすくなります。

日本の国立大学における障害学生支援方針の情報公開状況に関する調査―ホームページ上での情報を中心に―
島根大学における障がいのある学生への支援に関する基本方針(2016年) 島根大学

(2)支援体制と利用手続き
大学には、小・中学校や高校のように特別支援コーディネーターの配置や特別支援教育が設置はありませんが、下記の支援体制を利用することで学生生活を円滑に送ることができます。詳しくは、下記『入学後の支援』で説明します。
・学生相談室
・保健管理センター
・障害学生支援室

(3)利用可能な支援の種類
入学試験に関する配慮や入学後の修学支援についての方針などを参照することができます。学校によっては過去に実施した支援方法を掲載しているところもあり、自分のもつ障害に対する支援体制がどれだけ整備されているかを知ることができるでしょう。

障害のある学生への 支援・配慮事例(発達障害) 独立行政法人日本学生支援機構

(4)相談窓口と連絡先
相談は受験前の進路希望する段階から利用が可能です。受験や修学上の配慮を事前に相談しましょう。学校によっては、相談時期や予約方法が定められていることがありますので、事前に進学を希望する学校に確認が必要です。

障がい等のある入学志願者との事前相談 島根大学

オープンキャンパスや説明会を利用しよう

オープンキャンパスは、大学や専門学校などが受験生に向けて自校の特色やアピールポイントを伝えるイベントです。実際のキャンパスや校舎を開放して行われることが多く、学校の雰囲気を直接体験できるため、自分に合う学校かどうかを判断する材料にできるでしょう。
経験したことがないことを想像することが困難な自閉スペクトラム症にとって、オープンキャンパスは大学生活をイメージさせる機会であるため一定の効果を期待することができます。 しかし、実際の大学生活を体験できるわけではないため、入学後に自分の能力と授業で求められる課題のミスマッチが生じてしまうこともあります。 例えば、コミュニケーションが苦手であるにも関わらず、討論が必要なゼミ形式の授業が必修科目である場合です。このような事態を防ぐためにも、卒業に必要な必須科目の概要、発達障害をもつ学生に困難を期待しやすい実習・課外活動などの有無などを説明会で確認できるとよいでしょう。 説明会はオープンキャンパスと同時に開催されることがほとんどです。
また、レポートの書き方、論文などの資料の探し方、ゼミ発表の仕方、求められるパソコンスキルなどをまとめた下記の書籍を参考にしてもよいでしょう。

大学生学びのハンドブック 世界思想社

合理的配慮を申請しよう

受験の際に合理的配慮を申請することが可能です。
例えば大学入学共通テスト(前:センター試験)では、各種障害別に受験上の配慮が設定されています。例えば、肢体不自由のためにトイレの移動の負担がある場合には、トイレに近い会場に変更してもらったり、発達障害によって読み書きに時間を要する場合には試験時間を延長してもらったりすることができます。
これらの配慮を受けるためには、独立行政法人大学入試センターのホームページにて下記の所定書類をダウンロードして提出しなければなりません。

・配慮申請書
・診断書
・状況報告書

状況報告書では、現在の学校生活で受けている配慮内容やそのような配慮が必要な理由を記載しなければなりません。このことは学生が児童生徒期から支援を受けている必要があると言え、同時に学生本人が早期に自身の障害特性を理解していることが不可欠ともいえるでしょう。

各大学や専門学校などを受験する際の配慮や手続きは各学校によって異なります。募集要項やホームページに受験上の配慮について問い合わせ先が記載されていますので必ず確認をしましょう。

受験上の配慮案内 独立行政法人大学入試センター
令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト受験上の配慮案内 独立行政法人大学入試センター
令和3年度大学入学共通テスト受験上の配慮決定者数 独立行政法人大学入試センター

入学後の支援

入学後の環境変化は大きい

配慮を受けて試験に合格し、進学することがゴールではありません。高等教育の枠組みは小中高の枠組みと大きく異なるため、進学後に大きく戸惑ってしまうことがあります。
具体的には以下のような違いがあります。

・履修登録
単位数だけでなく、必須科目、選択必須などの卒業要件を満たさなければなりません。また、授業ごとに教室が変わるため、広いキャンパス内の構造を把握する必要もあります。

・在籍する教室がない
小中高と異なって活動拠点となる教室はありません。そのため、授業がない時間をどこで過ごせばよいか戸惑ってしまうことがあります。また『同じクラスの仲間』と意識づける教室を欠くために、交友関係を広げることが難しくなることもあります。

・授業スタイル
小中高では先生が黒板に内容を書いてくれましたが、大学では講師や教授などの講義を聴講して適宜ノートをとる授業が増えます。また、他の学生とのペア学習や考えをやり取りするゼミ形式の授業、実験や実習などもあり、これまでの『教えてもらう』スタイルから、『考える』『実践する』スタイルへと授業スタイルが変わっていきます。

・評価方法
小中高での試験では、授業で習った範囲の内容に関する選択問題、穴埋め形式などであったのに対し、大学などでの試験は「〇〇について考えを述べよ」と非常に広く漠然としていたり、提出期限や字数制限のあるレポートの提出を求められたりします。そのため授業外で調べ物をしたり、論文を検索して理解を深めたりしなければなりません。

・各種手続き
奨学金の申請や成績証明書の発行を希望する場合には、それぞれ学生課や教務課など適切な部署への申請が必要です。これらの申請は本人がしなければなりません。また、学内システムの操作説明会や定期健康診断の受診なども自身で情報を把握して参加しなければならず、授業以外の学校生活の全般で自立的に活動することが求められます。

学内の支援体制を利用しよう

基本的な支援体制には次のようなものがあります。ただし、学校によって名称が変わることがあります。

1.学生相談室
学生支援室、学生支援センターなどの名称が使用されることがあります。
履修登録の困りごと、進路の不安、友達関係の相談、ハラスメント、体調に関する悩みなど大学生活全般に関する全般的な相談に対応しています。
カウンセリングによって問題の改善を図ることが多く、臨床心理士が配置されていることがほとんどです。学校によっては、要予約で弁護士や医師と相談することができるところもあります。
相談内容によってはより適切な部署へ引き継いでくれるため、学生相談の最初の窓口と言えるでしょう。

2.保健管理センター
学校保健安全法では、学校が生徒や職員の安全管理をするように定められており、これに対して保健室の設置が明記されています。小学校や中学校などでは保健室が、大学では保健管理センターが該当します。いわば、保健管理センターは『大学の保健室』といえるでしょう。
配置される職員には医師、保健師、臨床心理士などがいます。学校の規模によっては常駐の医師ではなく嘱託医となり、勤務日が限定されていることがあります。
保健管理センターの基本的な役割は医療的な支援です。そのため、学生生活や進路相談などはできません。ただし、これらの悩みにより心身に不調をきたしている場合には、メンタルヘルス支援として対応してもらえることがあります。

3.障害学生支援室
障害学生支援室は障害のある学生の相談に応じて、就学を円滑にするための合理的配慮を学校に求めるための部署です。合理的配慮は学校側が実施するものであるため、就学に関して困っている生徒と学校をつなぐ部署が必要になるのです。
職員にコーディネーターやカウンセラーが配置されており、合理的配慮を学校に求めるための支援をしたり、学生自身ができる工夫について個別の相談にも応じたりしています。
独立行政法人日本学生支援機構の調査では、専門の障害学生支援室を設置する学校は少なく、多くは学生相談室や保健管理センターに併設されています。
医療機関や障害に関する相談機関ではないため、障害を治療したり改善するための支援を行ったりすることはありません。また、学生相談室や保健管理センターを利用するのに診断書や専門家の意見書などの資料は必要ありませんが、障害学生支援室は合理的配慮の申請に関する部署であるため、これらの資料を要請されることがあります。

『7.障害学生支援に関する体制等』 令和元年度(2019 年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書 独立行政法人日本学生支援機構
島根大学 障がい学生支援室

4.教員を含む全職員
修学に関する相談は上記に挙げた部署にしかできないということではありません。
学校の支援体制は教員、事務員、専門支援員を含む全職員が担っており、学校全体で支援のネットワークを作っています。ですので、困ったことや気になったことがあれば、身近な職員に相談することから始めてみましょう。

障害学生支援 独立行政法人日本学生支援機構
教職員のための障害学生修学支援ガイド 独立行政法人日本学生支援機構

就学に関する相談以外の相談

学校生活での困りごとは就学場面に限ったものではありません。親元を離れて一人暮らしを始めると炊事洗濯、行政の手続き、金銭管理、交通などで様々なトラブルが生じることがあります。 例えば、ゴミ出しの方法がわからず部屋がゴミでいっぱいになってしまう、公共料金の引き落とし手続きがわからず電気が止められてしまう、架空請求やクレジットカードの問題、カルト宗教、マルチ商法、飲酒問題や交通事故など、保護者としては不安が尽きないものです。
これら生活に関する問題に対する支援は、学校に求めることはできません。就学そのものに関する支援でないこと、合理的配慮の範疇を超えるからです。基本的には学生本人が生活に関するスキル(ライフスキル)を身につけるか、学生寮などの集団生活で問題を生じにくくするなどの対策が必要になるでしょう。
学校によっては同じ障害をもった学生同士でグループを作り、問題に対する対処法を話し合ったり交流会を設定したりしています。また、各大学の生活協同組合が学生向けに情報発信をしたりSNSで随時相談に応じたりしているところもあり、これらを活用することで生活に関する問題に対処することが可能です。

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本人が発達障害と自覚していない、受け入れていない場合

・高校までに発達障害の診断をうけたが本人に告知していない
・発達障害の傾向は強いが医療機関を受診していないため診断がない
・医療機関に受診したものの診断に至らないグレーゾーン
・高校までは担任教諭が配慮してくれたことで問題なく過ごせていた
上記のような場合、本人が発達障害と自覚しないまま高等教育機関に入学することがあります。高等教育機関に入学しても問題がなければ支援は不要であり、障害の診断や告知も不要でしょう。 しかし、既に述べた通り、高等教育機関は高校までの学校環境とは大きく異なるため、入学して初めて発達障害特性が表面化したり不適応状態に陥ったりする例も少なくなく、このような場合には医療機関の受診や専門機関での相談を勧めていく方がよいでしょう。
合理的配慮を受けるためには診断書や障碍者手帳の取得が必須条件ではなく、心理的検査の結果や学内外の専門家の意見書、大学入学前の支援状況に関する資料などでも可能です。「障害の認定をうけなければならない」と誤解している学生は多く、丁寧に説明することが望まれます。
もちろん、学校や支援者は安易に学生へ医療機関の受診や相談機関の利用を勧めてはなりません。学生が通学する学校に支援体制が整っているかを把握し、これらを利用するために診断書や意見書などが必須の場合に、学生へ受診と相談を勧めましょう。

第6章2 支援ガイド 発達 支援を行なう場合の注意点 独立行政法人日本学生支援機構