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就労支援(発達障害への支援)

就労支援には、障害者総合支援法や障害者雇用促進法に基づいた支援サービスがありますが、特に発達障害に対して実施されるサービスもあります。

この記事では発達障害を対象にした就労支援について説明します。
なお、障害者総合支援法や障害者雇用促進法に基づいた支援はそれぞれ下記の記事を参照ください。

就労支援(障害者総合支援法)
就労支援(障害者雇用促進法)

なぜ発達障害に就労支援が必要か

本人の立場だけでなく事業主の立場からも発達障害者への就労支援が必要と言えます。

本人の立場から考えた場合、次の点から就労支援の必要性が理解されるでしょう。

発達障害をもつ方は、学生の頃は宿題やレポート提出など、することや課題が具体的であるため、発達障害の問題が大きく表面化しないことがあります。また、合理的配慮によってそれほど支障なく学校生活を送ることができます。

ところが社会人になると対人折衝、課題分析、同時並行作業など様々な業務活動が発達障害の特性と合わないことがあり、心身に不調をきたしてしまうのです。また、臨機応変な状況判断や、まさしく『空気を読む』ような高度なコミュニケーションスキルが求められる社会人になって不適応状態になり、初めて発達障害だとわかることも少なくなく、発達障害のある方やその特性のある方には、就労前から就労後に至るまで、継続的な支援が必要になるのです。

事業主の立場から考えた場合にも、発達障害者への支援は必須です。

発達障害は知的障害や身体障害のように状態がわかりにくいため、本人の努力や意識の問題と考えてしまい、不適切な対応をしてしまうことがあります。発達障害に対する正しい理解と適切な支援を講じることで、労働者は能力を発揮することができ、経営に貢献することができます。

また、障害者雇用促進法では、従業員が一定以上いる企業は、従業員に占める障害者の割合を『法定雇用率』以上にする義務が課せられており、法定雇用率に満たないと障害者雇用納付金を支払わなければなりません。この障害者雇用率制度の対象に2018(平成30)年から発達障害を含む精神障害者も加わることになったため、事業主が発達障害者に対する支援体制を整えることは、事業主にとっても重要なことなのです。もちろん『法定雇用率』を満たすためだけの就労支援であってはならないのは言うまでもありません。

障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わりました 厚生労働省
障害者雇用のルール(事業主の方へ) 厚生労働省
障害者雇用納付金制度の概要 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

発達障害への就労支援の種類

発達障害への就労支援には大きく「発達障害が利用できる主な支援」と「発達障害を対象にした主な支援」の2つに分けることができます。

1.発達障害が利用できる主な就労支援

  • ハローワークにおける職業相談、職業紹介
  • 障害者試行雇用(トライアル雇用)
  • 障害者職場定着支援奨励金
  • 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業
  • 障害者就業・支援センター事業

上記一部の詳細は就労支援(障害者雇用促進法)を参照ください。

2.発達障害を対象にした主な就労支援

(1)若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム

発達障害のある人や疑いのある人が各機関の就労相談に来た場合、各機関が連携、協力しながら就労支援を行うのが『若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム』の仕組みです。

例えば、ハローワークにおいて、発達障害などの要因によってコミュニケーション能力に困難を抱えている求職者に対しては、その希望や特性に応じて地域障害者職業センターや発達障害者支援センターなどに誘導したりするほか、障害者向けの専門支援を希望しない求職者に対してはハローワーク内の一般相談窓口へ誘導し、職業相談・職場定着支援などを行います。一部のハローワークには発達障害者支援に特化した『職業支援ナビゲーター』を設置しています。

対象者は34歳未満の若年求職者で下記のような困難を抱えている方となります。

●コミュニケーション能力や対人関係に困難を抱えている者
●不採用が連続している者
●短期間で離転職を繰り返す者
●発達障害の診断を有する者あるいはその特性がうかがわれる者

若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラム 厚生労働省

(2)発達障害者に対する体系的支援プログラム

発達障害者の社会生活技能、作業遂行能力などの向上を目的とした『職業準備支援』を行います。『職業準備支援』では、地域障害者職業センターがセンター内にて職業評価、職業準備支援、職場適応支援などの専門的な職業リハビリテーションを実施するほか、障害者職業総合センターが研究開発をした就労支援技法を活用し、センター内にて発達障害者に対する専門的支援を実施しています。

『職業準備支援』のほかにも『求職活動支援』『関係機関との就労支援ネットワークの構築に向けた取り組み』を体系的に実施しています。

発達障害者に対する体系的支援プログラム 厚生労働省
(例)発達達障害者就労支援カリキュラム 岡山障害者職業センター

(3)発達障害者雇用トータルサポーター

一部のハローワークには『発達障害者雇用トータルサポーター』が配置されており、発達障害者の求職者に対してはカウンセリングなどの就職に向けた支援を実施するとともに、事業主に対しては発達障害者などの雇用に係る課題解決のための相談援助などの支援を実施しています。

発達障害者雇用トータルサポーター 厚生労働省

(4)精神・発達障害者しごとサポーター

就労支援施策の拡充とともに、障害者の雇用は進んでおり、年々、身体障害、知的障害、精神障害および発達障害(以下「精神・発達障害」)のある労働者の数も増加しています。しかしながら、精神・発達障害者の職場定着は容易ではなく、障害種別でみると民間企業に勤務する障害者としては、身体障害と知的障害に比べて人数が少ないのが現状です。

そこで厚生労働省は、精神・発達障害者と一緒に働く同僚が、精神・発達障害について正しい知識や理解を持って温かく見守れるよう『精神・発達障害者しごとサポーター養成講座』を全国各地で開催しています。

令和2年 障害者雇用状況の集計結果 民間企業における障害者の雇用状況 p6 厚生労働省
精神・発達障害者しごとサポーター 厚生労働省
精神・発達障害者しごとサポーター養成講座e-ラーニング版 厚生労働省

(5)発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金

発達障害や難病のある方の雇用と職場定着を促進するために、特定求職者雇用開発助成金制度には『発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金』が設けられており、障害者手帳を持たない発達障害や難病のある方を雇い入れる事業主に対して助成金を支給しています。

労働者の労働要件や企業規模に応じて、労働者1人あたり総額100万円以上の助成金が支給されます。

対象となる事業主の要件や給付の流れについては下記URLにて詳細を確認ください。

発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金 厚生労働省
事業主の皆様へ「特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース)」のご案内 厚生労働省

(6)発達障害を対象にしたその他の就労支援

職業リハビリテーションの研究と開発を進めている障害者職業総合センターでは、職業リハビリテーションに携わる専門家にも支援を行っています。

下記の資料『発達障害を理解するために~支援者のためのQ&A~』では、支援者が発達障害の就労支援について理解を深められるよう作成されたものです。

発達障害を理解するために~支援者のためのQ&A~ 障害者職業総合センター

事業主が発達障害者のためにどのような職場改善ができるかをまとめた好事例集があります。事業者向けにまとめられた好事例集ですが、事業者が講じている様々な支援事例を教育現場や放課後等デイサービスなどの福祉現場でも援用することも可能でしょう。

発達障害者のための職場改善好事例集(平成23年度) 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

発達障害に対する就労支援には、同じ支援サービスでも、障害者本人、事業主、支援者などの立場によって必須知識や手続きが変わってきます。立場に応じた理解が必要です。

発達障害者の就労支援 (発達障害者の方へ) 厚生労働省
発達障害者の就労支援(事業主の方へ) 厚生労働省

島根県の発達障害者に対する就労支援

島根県は発達障害者に対する就労支援の連携の在り方について、支援段階を下記の5段階に分けて課題と取り組みの方向性を明確にし、段階ごとに連携が必要な支援機関をまとめています(下記『2.発達障がい者の就労支援の進め方』の29~31ページを参照)。

島根県発達障がい者支援体制整備検討委員会

表紙、はじめに、目次

1.発達障がい者の就労を支援するうえで知っておきたいこと

2.発達障がい者の就労支援の進め方

島根県における就労支援の取組及び状況

参考資料

(1)不適応期

発達障害があることに気が付かない時期であるため、適切な支援を受けられずに様々な社会生活場面で問題が生じてしまっていることがあります。不適応状態が長期化して二次障害を発症させてしまわないためにも、早期に支援につなげることが重要です。

この時期は、島根県や発達障害者支援センターが主体となって、情報提供や普及啓発活動を行い、地域住民に発達障害を周知したり、教育機関は在学中に発達障害の傾向を認めた学生に対し、卒業までに医療機関や障害者職業・生活支援センター、発達障害者支援センターと早期に連携したりすることが望まれます。

(2)インテーク期

相談の申し込みからはじまり、特性などの査定、支援ニーズの検討を経て、自己理解と障害理解を支援していきます。

障害理解のために、専門の医療機関の受診を勧めることがあります。障害理解により支援目標を具体的になり、障害者手帳の取得や自発的な援助要請にもつながります。

支援者が総合的かつ適切な評価することが必要になる時期であるため、スキルアップのための講習会を発達障害者支援センターや障害者職業センターなどが開催します。

相談支援専門員が支援ニーズを詳細に聴取し関係機関と共有するほか、教育機関も本人の個別の教育支援計画が作成していれば、これを関係機関と共有します。

本人だけでなく家族も不安を抱えてしまう時期であるため、ペアレントメンターが家族に情報提供や助言をします。

(3)移行前期

この時期の支援は「社会化への入り口支援」であり、社会への一員として成長していく過程を支える時期です。集団活動や社会交流での問題を抱えやすい発達障害において、もっとも慎重にかつ丁寧に対応を進めていかなければならない時期と言えます。

この時期は個別面談によって自己理解を深めるだけでなく、集団活動の場に参加することで他者理解も深めていきます。

就労移行支援事業、就労継続支援事業を活用して就労場面に徐々に参加するだけでなく、障害者就業・生活支援センターや地域活動支援センターを活用して日常生活や社会参加も整えていきます。

(4)移行期

社会人として就職して生活するための必要な能力を身につける時期す。適性を見据えて職業訓練を受け、求職活動や企業実習などの実際の場面を通じて自己理解や他者理解を深めていきます。また、安定して就労を継続できるよう、体調管理や金銭管理などのライフスキル習得の支援も行われます。

本人への支援だけでなく、事業主に対する助言や支援も同時に行われます。例えば、島根障害者職業センターが、事業主に短時間トライアル雇用奨励金や発達障害者・難治性疾患患者雇用開発助成金などの制度の利用を勧めていきます。

(5)就労期

この段階では、障害をもつ本人は企業に就職していることがほとんどです。しかし、就労支援は就職が目的ではありません。安定して仕事を続けていけるようになるまでを支援していきます。例えば、事業主が企業内の環境や制度を整えられるよう、労働局やハローワークが合理的配慮や支援の好事例を紹介します。

また、従業員が障害をもつ本人に対して適切な関わりができるよう、発達障害者支援センターが企業に講師を派遣して社内研修を行います。


上図:発達障がい者の就労への基本的なステップ 島根県発達障がい者支援体制整備検討委員会 より