アイコン ファイル 気づく
アイコン はてな

LDについて

小学校に入学すると、文字の読み書き、計算などの教科学習が始まります。ところが、一部の子どもには文字の読み書きが思うようにできなかったり、数量の理解が難しかったりすることがあり、背景に学習障害が潜んでいる場合があります。
この記事では学習障害について解説し、どのような支援が必要なのか、利用できるツールなどについて説明します。

学習障害とは何か

学習障害とは学習に必要な基本的な能力(読む、書く、計算・数学的に考える)に困難がある状態です。
学習に必要な基本的な能力に困難があるというだけで、学習ができない、勉強ができないというわけではありません。下図の通り、読み書きには、見て・聞いて捉えるだけの単純な学習(低次の読み書き)と、捉えたものを頭で理解する、考えて表現するといった複雑な学習(高次の読み書き)があります。学習障害は、低次の読み書きに支障があるだけで、高次の読み書きには支障がありません。そのため『読む』に困難があっても代読してもらうと教科書の内容は理解できますし、『書く』に困難があってもワープロを使用すると文章を作成することができるのです。

学習障害であっても、文字を読んだり書いたりすることが比較的できるようになる人がいます。というのも、学習障害は『困難がある』というだけで、『できない』ということではないため、慣れによって一見すると上達しているように見えることがあります。しかし、一般の児童生徒が読み書きを自動的にしているのに対し、学習障害のある児童生徒はかなり意識的に取り組まなければなりません。結果、字を読むことに意識が割かれてしまい、文章の内容を理解することがおろそかになったり、意識しすぎて疲労したりするのです。

発達障害の理解のために 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html

学習障害の定義

学習障害の定義は機関によって様々です。

文部科学省の定義

学習障害をLearning Disabilities:LDと表記し、下記のように定義しています。

基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。
学習障害は、その原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない。

なお、2003年の文部科学省の「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」では、通常学級に在籍する児童のうち、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するに著しい困難を示す児童生徒の割合が4.5%であると報告されました。支援の実態と本調査結果には大きな違いがみられ、通常学級に在籍する学習困難の児童に対して支援が後手になっている可能性があるようです。

DSM-Vの定義

アメリカ精神医学会のDSM-V(精神障害の診断と統計マニュアル)では、限局性学習症(Specific Learning Disorder:SLD)と表記し、下記6つの学習障害に分類しています。

  1. 字を読むこと
  2. 文章を読んで理解すること
  3. 綴り字が困難
  4. 文章にすることが困難(文法、統語、文章表現)
  5. 数字の概念、数量の概念
  6. 数学的推論(数学的概念、数学的事実、数学的方法)

これらは知的障害などによって生じているものではない。

同じ『LD』表記でも、文部科学省は「Disabilities:無力、不利」として教育の可能性を示すのに対し、アメリカ精神医学会は「Disorder:障害」として子どもの学習困難の状態を捉えています。また、文部科学省では「聞く」「話す」を学習障害に含みますが、アメリカ精神医学会は限局性学習症ではなく『コミュニケーション障害群』に分類しています。

国際ディスレクシア協会の定義

診断名として使用されませんが以下の名称が使用されることもあります。

Dyslexia(ディスレクシア)=読み障害:DSM-Vの1、2に相当
Dysgraphia(ディスグラフィア)=書き障害:DSM-Vの3、4に相当
Dyscalculia(ディスカリキュリア)=算数障害:DSM-Vの5、6に相当

国際ディスレクシア協会はディスレクシアを下記のように定義しています。

ディスレクシアは神経生物学的原因に起因する特異的学習障害である。その特徴は、正確かつ(または)流暢な単語認識の困難さであり、綴りや文字記号音声化の拙劣さである。
こうした困難さは、典型的には、言語の音韻的要素の障害によるものであり、しばしば他の認知能力からは予測できないものであり、また、通常の授業も効果的ではない。
二次的には、結果的に読解や読む機会が少なくなるという問題が生じ、それは語彙の発達や背景となる知識の増大を妨げるものとなり得る。

これによると、読み障害は以下のような特徴があります。

  1. 学習を受けていないことで生じるのではなく、神経学的な要因によって生じている。
  2. 知的能力や教育に見合わない読みの困難があり、教育指導では改善しにくい。
  3. 単語をスラスラと認識したり正確に捉えたりすることが難しい。
    例:文の中の単語をひとまとめに捉えられない、すらすら読めない。
  4. 文字を声にすること(デコーディング能力)に障害がみられる。
    例:文字や文字列を音声に変える作業が遅かったり間違いが多かったりする。
  5. 字を書くことの障害(書字障害=ディスグラフィア)の困難も併存することが少なくない。
  6. 読み困難が要因となって学習活動が減り、語彙や知識の獲得を妨げる。
  7. 音韻認識(※)の障害によって生じる。

※音韻認識=耳にした言葉がどのような音から構成されているかを認識する能力。音韻認識が育つと、文字と音を対応させることができるようになります。

学習障害児に対する指導について(報告) 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/002.htm
e-ヘルスネット 厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-004.html
ディスレクシアとは 一般社団法人日本ディスレクシア協会
https://jdyslexia.com/information/dyslexia.html

文部科学省やアメリカ精神医学会の定義では、知的障害がみられないことを学習障害の条件にしています。知的障害が基礎にある場合、読み書き困難は学習障害によるものではなく、知的障害によるもの、と判断されるのです。
一方、国際ディスレクシア協会の定義では、音韻認識障害が原因であるとしており、知的障害の有無は明記されていません。
例えば、軽度の知的障害があり学力は小学3年生のA君(小学6年男児)が平仮名を読めない場合、以下のように判断されることがあります。

  • 日本では平仮名を読むことは小学1、2年生以上の学力があれば十分可能である。
  • A君は小学3年生以上の学力があるため、平仮名を読む能力はある。
  • 小学6年生のA君には知的障害があるが、平仮名を読めないのはこれが確定的な要因ではなさそう。
  • →知的障害に対する支援だけでなく、学習場面には代読などの支援が必要である。

※知能と学力は同じものではありません。知能と学力の違いはこちらを参照ください。

具体的な困りごと

読字障害

大きく分けて文字を声にして読むことと読んだ文章を理解することに困難が生じやすいです。具体的には以下のようなものがあります。

  • 話すのは得意だけど読みは苦手でたどたどしい。
  • 練習すれば比較的スラスラ読めるようになるが、初めて見る文章は逐次読み(一文字一文字ゆっくり読む)になる。
  • 勝手読みが多い(「〇〇しました」と書いているのに「〇〇します」と読む」
  • スラスラ読んでいても、内容を理解できず問に答えられない(文字を読むのに意識が割かれてしまい、理解がおろそかになる)。
  • 行を読み間違える。
  • 形の似た平仮名や漢字をよく読み間違えてしまう など

行の読み間違えは、行を飛んでしまっても文章の内容を理解していないために文章内容が合わないことに気がつかないことで生じてしまいます。

書字障害

アルファベット文化である海外では綴り字の障害として書字障害が挙げられることが一般的です。例えば、February(2月)を“febrary”や“febray”のように誤って綴ってしまいます。
日本語(ひらがな)の場合は、あ=a こ=ko こども=ko・do・mo のように、文字と音が一致しているため、綴り字の問題は生じにくいと言われています。しかし、日本では、ひらがな、カタカナ、漢字を3種の文字を使いわけ、特に漢字は文字の形が複雑であることから次のような書字の問題(錯書)が出現することがあります。

  • 視覚性錯書:形態の似たほかの字に誤る 目→日
  • 意味性錯書:意味の近いものに間違える 算数→計算
  • 類音声錯書:読みが全く同じ別の文字を書く 家庭訪問→仮定訪問 など

その他にも

  • 点や線が少ない、多い
  • 書き順がバラバラ
  • マスからはみ出る(偏と旁が離れている)
  • 偏と旁が左右入れ替わる など

文字の書字だけでなく、句読点の誤りや不正確な文法の使い方、作文を書く際に構成のイメージができないなどの特徴が見られることがあります。ただし、句読点や文法の誤りは統語に関する規則理解が曖昧となっていることが背景に、文章構成力の困難は、構成を順序立てることが苦手、書きたいことが明確でないなどの要因が重なり合っていることが背景にあることがあります。

下図の青部分に該当する言語は読み書き障害が出にくく、赤部分は読み書き障害が出やすい言語です。日本語は音と文字の対応がよいため、小学生では読み書きの問題が出にくいことがあります。しかし、中学生になって英語が基礎科目になると、英語の綴りや理解ができないことが明らかになり、実は軽微な音韻認識の障害が背景にあったことが判明することがあります。
このような場合、子ども自身は小学校までは勉強はできていたのに英語は全く分からない、と自信を失ってしまうだけでなく、保護者や教師も「小学校の時は勉強できていたから、教えればできるはずだ」とより厳しい指導をしてしまうことがあります。国際ディスレクシア協会の定義の通り、背景に音韻認識がある場合には『通常の授業も効果的ではない』ため、適切な支援が必要となります。

言語によるディスレクシア出現率の違い

算数障害

大きく分けて数量の理解困難による『計算の問題』と数量の変化や移動のイメージ困難による『数学的推論の問題』に大別されます。具体的には以下のようなものがあります。

  • 抽象的に数と対応させるのが難しい。犬、犬、犬なら3匹ならわかるが、犬、猫、ネズミを3匹ととられることが難しい。
  • 数と量の理解が難しい。1、2、3と数えられるが「3個」と量を総括できない。
  • 一瞬で少量の個数を捉えられず、サイコロの目を数えるのに時間がかかる。サビタイジングの問題※1。
  • 一桁の足し引き算、繰り上がりのある足し引き算を暗記できない。数的事実の問題※2
  • 割り算の筆算では、どの位に商をたてたらよいか理解が難しい。
  • 数量の変化をイメージしにくく、文章題の理解が難しい。例えば、割り算は大きい数字を小さい数字で割ればよいと自動的に計算する児童では「0.5ℓのジュースを2人で分けたら何人?」との問題では『2÷0.5=4リットル』のような計算をしてしまう。 など

※1サビタイジング=脳は少ない数(3個〜4個)であれば一瞬で把握でき、通常の数え上げるよりも効果的に数量を把握している。
※2数的事実=10の合成を分解するプロセスがなくても瞬時に答えが出せるようになる能力のこと。

文章問題ができている場合でも『今回の授業が掛け算(割り算)だから』と授業の状況から判断して、四則を推測している場合があります。テストの結果が良いから学習障害はないだろうと判断せず、子どもの様子を詳細に観察して判断することが必要です。

算数障害とはいったい? 熊谷恵子 公益社団法人日本心理学会
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/old/70-17-20.pdf

学習障害に伴う問題と二次障害

平成24年の文部科学省の調査では、日本全国の小中学生の6.5%に発達障害の可能性があると報告されました。そのうち読み書きなどの学習困難の割合は4.5%と高く、読み書きなどの学習に困難があるにも関わらず、支援を受けずに見過ごされている児童生徒がいることが予想されています。東京大学先端科学技術研究センターの調査では、不登校児童生徒を対象に読み書き検査を実施したところ、2割に近くの子ども達が困難を呈していたという報告もあり、学校不適応と読み書き障害の関係は無視できません。
読み書きや計算能力は、ほとんどの子どもが小学校に入ってから習得するため、小学校に入るまでは障害に気づかれないことも少なくありません。また、一般的に学習障害は知能に問題が見られないとされるため、病院や相談機関で実施される知能検査で見過ごされてしまう傾向にあります。

残念なことに、読み、書き、算術思考など、特定の領域に困難がある場合、周りからは「他の科目はできている」との理由で「怠けている」と誤解されてしまうことがあります。また、本人は困難がある授業ではなく「得意な授業で頑張っている」のに、教師や保護者からは「好きな事しかしない」と不適切な評価を受けてしまうことがあるようです。
理解されない苦しみや本人なりの努力の記録は『読めなくても、書けなくても、勉強したい―ディスレクシアのオレなりの読み書き』に当事者の井上智さんと妻であり学校の教師でもある井上賞子さんの書籍に詳しく書かれていますので是非参考にしてください。井上夫妻は島根県内の方です。

学校不適応を予防するために~学習障害の視点から~ テクノロジーを用いた読み書き支援 平林ルミ(2015) 小児保健研究 第74巻 第6号
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2015/007406/009/0786-0789.pdf
読めなくても、書けなくても、勉強したい―ディスレクシアのオレなりの読み書き 井上智、井上賞子
https://www.amazon.co.jp/dp/4892402125/

学習障害の原因、治療と支援

学習障害の原因として、音韻認識の障害、認知機能の語彙経路(Lexical route)の障害の他、ディスレクシアに関与する候補遺伝子の発見などがありますが、原因は完全に解明されていません。しかし、親の育て方や教育の問題などの環境要因は明確に否定されています。
注意欠如多動性障害(ADHD)を合併している場合には、抗ADHD薬の処方でケアレスミスや衝動的な誤答が改善することがあります。しかし、これらはADHDに関係する学習困難であり、学習障害による学習困難への対処ではありません。

学習障害による学習障害の場合、学習環境を整えるために合理的配慮が必要になります。例えば、読み障害がある場合、特別支援教育支援員に教科書や問題を代読してもらうことが可能になります。しかし「特別支援教育支援員」の利用は、文字を読む場面でその都度、支援員を呼ばなければならず、自分の好きなタイミングで読むことができないこと、また、代読の音声が漏れ、他の児童の授業を妨害することもあります。そのため、タブレット型PCを利用して電子教科書や光学文字認識アプリによって、自分の好きなタイミングで文字を音声化できるだけでなく、タブレットにつないだイヤホンで周囲に迷惑をかけることもありません。

タブレット型PCなどを活用した教育のICT(information communication technology)支援は、合理的配慮の一つの方法として文部科学省が推奨しています。自治体によってはタブレット型PCの活用事例を公開しているところもあり(例えば、東京都や福井県)、学校だけでなく家庭でもタブレット型PCを利用して教育を勧められるようになっています。
文部科学省の通達では、タブレット型PCなどのICT機器は使用を許可することにのみ限定されており、学校教育場面でタブレット型PCを準備したり使い方を教えたりすることまでは求められていません。つまり、タブレット型PCを購入すること、教育場面で必要なアプリケーションをダウンロードすること、自動音声の速さをセットアップすること、基本的な使用方法を習得させることは、家庭の責務となります。これらを家庭で準備することができれば、学校は合理的配慮としてその方法を受け入れなければなりません。しかし、学校によってはタブレットPCの活用に消極的であったり「他の子どもが羨ましがるから」との理由で拒否したりする事例が発生しています。この場合、市町村教育委員会、特別支援教育の専門家、主治医などを交えて、合理的配慮に関して適切な理解を深められるような話し合いが必要になります。 合理的配慮に関してはこちらの記事を参照ください。

「特別支援教育支援員」を活用するために 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/002.pdf
文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1364725.htm
ICT機器の活用事例集 東京都教育委員会
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/document/special_needs_education/guideline.html
「読み」や「書き」に困難さがある児童生徒に対するアセスメント・指導・支援パッケージの特設ページ 福井県特別支援教育センター
http://www.fukuisec.ed.jp/