発達障害とは
平成24年の文部科学省の調査によると、日本全国の小中学生の6.5%に発達障害の可能性があり、うち4割は支援を受けられていない状態にあるようです。この報告に従うと、30人のクラスでは2~3人が発達障害を抱えている可能性があるということになり、発達障害は極めて特別なことではないとも言えるでしょう。
この記事では、発達障害とは何か、その原因や対応の仕方について説明していきます。
通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1328729.htm
『発達障害』は幅広い名称のこと
体の発達や考え方の発達など、様々な領域の『発達』があります。発達障害は特に脳の機能に関するものであり、対人関係やコミュニケーションに問題が現れたり、落ち着きがなかったり、読み書きが苦手だったりと、人によって症状はさまざまになります。その特性によって、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症、限局性学習症などに分類されます。
2004年に成立した発達障害者支援法では次のように記されています。
「この法律において『発達障害』とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。」
この法律に従うと、発達障害は以下に分類されます。
- 自閉症
- アスペルガー症候群
- その他の広汎性発達障害
- 学習障害
- 注意欠如多動性障害
- その他
医療の現場では世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類第10版」(ICD-10)やアメリカ精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版」(DSM-5)のような病気の分類基準に従って、以下のような名称が使用さることが一般的です。※この記事ではDSM-5に従って記載をしています。
- 自閉スペクトラム症/自閉スペクトラム障害
- 注意欠如多動症/注意欠如多動性障害
- 限局性学習症/限局性学習障害
- 発達性協調運動症/発達性協調運動障害
- チック症
- その他
このように『発達障害』とは、自閉症、注意欠如多動症、限局性学習症(学習障害)などを含む幅広い概念なのです。
発達障害者支援法で定められている「自閉症」「アスペルガー症候群」「その他の広汎性発達障害」はDSM-5では「自閉スペクトラム症/自閉スペクトラム障害」に統合されており、その他の発達障害は大まかに以下の表にまとめられます。
それぞれの発達障害の特徴については別の記事で説明していますのでそちらを参照ください。
略記 | 発達障害者支援法 | DSM-5 |
---|---|---|
ASD | 自閉症 | 自閉スペクトラム症/自閉スペクトラム障害 |
アスペルガー症候群 | ||
その他の広汎性発達障害 | ||
ADHD | 注意欠如多動性障害 | 注意欠如多動症/注意欠如多動性障害 |
LD | 学習障害 | 限局性学習症/限局性学習障害 |
その他 | その他 | 発達性協調運動症/発達性協調運動障害、チック症など |
発達障害者支援法 法令リード
https://hourei.net/law/416AC1000000167
発達障害の理解のために 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html
知ることからはじめようみんなのメンタルヘルス 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_develop.html
発達障害を理解する 発達障害情報・支援センター
http://www.rehab.go.jp/ddis/understand/
発達障害の原因は不明
発達障害の原因は不明なことがほとんどですが、自閉スペクトラム症の一部は、胎児期の風疹感染(先天性風疹症候群)、脆弱X症候群、結節性硬化症、フェニルケトン尿症などに合併することがあります。このような疾患が疑われる場合には適切な検査と治療が行われます。
いずれにせよ、発達障害は先天的(生まれつき備わっていること)な脳機能の問題が原因であり、後天的(生まれ付きでなく、あとから身についたこと)なものではないことがわかっており、親の育て方の問題や愛情不足が原因であるということは明確に否定されています。
発達障害の診断について
発達障害の原因は不明なことが多いため、血液検査や脳の画像診断など具体的な基準はありません。そのため保護者や本人との面談や、脳波検査、心理検査などの結果から総合的に診断していくことになります。
診断の基準のひとつに『発達早期に見られる』ことが必要となります。乳幼児期や学童期のような発達の途上で、各発達障害でみられる症状が確認されなければなりません。
例えば、幼少期には見られなかったが、中学生の時に交通事故にあってから不注意が激しくなった、仕事で強いストレスを受けてから何度も確認したりこだわりが強くなったりするようになった場合には、発達障害に似た症状ではありますが、発達障害ではなく高次脳機能障害や精神疾患などその他の傷病となります。
診断では、複数の発達障害が重複することがあります。例えば自閉スペクトラム症と注意欠如多動症、自閉スペクトラム症と限局性学習症が重複することがあります。また、成長に従い診断名が変わることがあります。これは幼少期には自閉スペクトラム症にも注意欠如多動症にも見える曖昧な症状が成長とともに明確になったり、発達障害の素因が環境との兼ね合いで顕在化したりするためです。「診断が変わった」「他の診断が付け加えられた」から、不安になって通院先を変えるのはお勧めできません。成長とともに課題が明確になっているということであり、それだけ必要な対応が具体的になっているということでもあるのです。診断に関して疑問なこと不安なことがある場合には、必ず主治医と相談しましょう。
診断を受けることで受けられるサービスなどについては、別の記事で説明していますのでそちらを参照ください。
発達障害の治療とその目的
発達障害そのものは完治が難しく、多くは『治療』ではなく『支援』が重視されます。
支援方法はそれぞれの発達障害によって異なりますが、大きく2種類の支援方法に分けられます
1.環境調整
環境調整の明確な定義はなく、その方法は発達障害に限らず、知的障害や身体障害に応じて様々です。国立障害者リハビリテーションセンターでは、環境調整には「生活の一般的な基盤を整備する支援と、高次脳機能障害者が安心して行動できるように環境を調整し整備する支援とが含まれる」としています。特に発達障害では後者の「環境を調整し整備する支援」が必要となります。具体的な方法として以下のようなものがあげられます。
情報をわかりやすくする:わかりやすい掲示物にして情報を提示する、注意がそれないように教室では前の席にするなど
関わり方を整える:ペアレントトレーニング、具体的な指示でひとつひとつ丁寧に説明するなど
適切な課題内容や方法に変える:課題の量を調整する、自動読み上げ機能のあるタブレットPCを使う、ワープロによる記入で課題提出するなど
適切な進路を選ぶ:特別支援級や特別支援学校、障害者雇用枠で就職するなど
2.薬物療法
薬物を使用しますが、これによって完治するようなものではありません。あくまでも、薬物は発達障害の症状を和らげるためのものです。例えば、自閉スペクトラム症では自閉スペクトラム症そのものへの薬物療法ではなく、自閉スペクトラム症の方でよくみられる易刺激性(刺激に反応しやすい)の症状を緩和させるために薬物が使用されます。また、注意欠如・多動症(ADHD)では、衝動性や不注意に対して薬物が使用されることがありますが、この場合でも薬物療法のみで対処するのではなく、環境調整と併せて実施することが強く推奨されています。薬物だけでなく環境調整との相乗効果で支援をしていくのです。
完治の難しい発達障害では『治療』よりも『支援』が重視され、薬物療法を実施する病院だけでなく、学生の時には教育や福祉、就職の時には産業領域の支援が必要になります。ライフステージに応じて学校や市役所、ハローワークなど就労支援サービスを提供している機関と相談しましょう。適切な『支援』をうけることで生活を大きく損なう『二次障害』を防ぐことができます。いわば、発達障害の支援とは『二次障害化の防止』ともいえるのです。二次障害については別の記事で説明していますので参照してください。
支援原則と支援方法の学習 発達障害情報・支援センター
http://www.rehab.go.jp/ddis/%E3%81%93%E3%82%93%E3%81%AA%E3%81%A8%E3%81%8D%E3%80%81%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%99%E3%82%8B%EF%BC%9F/%E6%94%AF%E6%8F%B4%E5%8E%9F%E5%89%87%E3%81%A8%E6%94%AF%E6%8F%B4%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%81%AE%E5%AD%A6%E7%BF%92/
環境調整について 国立障害者リハビリテーションセンター
http://www.rehab.go.jp/application/files/9715/1669/0353/3_1_11_.pdf
注意欠如・多動症―ADHD―の診断・治療ガイドライン第4版
http://medical.radionikkei.jp/medicalq/Press_0612_MedicalQ7.pdf
発達障害の支援で必要なこと
発達障害は、本人や家族だけでなく学校の先生や地域の住人も正しい理解が必要です。
正しい理解のためには、子育てに関する育成相談、障害に関する障害相談、健康に関する保健相談などを市役所、保健所、児童相談所にしてみましょう。これらの相談は、本人や家族だけでなく、学校の教師や地域住民でも利用できます。