不登校支援
不登校への支援は、子どもたちが安心・安全に学校に再び通えるようになるだけでなく、子どもたちが学校ではなくても自分らしく頑張れる居場所を見つけるような支援もあります。この記事では、不登校支援について説明をします。
不登校とは
文部科学省は、不登校を連続してあるいは時々登校しながらも年間30日間以上欠席し、「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景によって児童生徒が登校しないあるいはしたくてもできない状況にある(病気や経済的な理由による者を除いたもの)」と定義しています。
日本での不登校児童生徒の割合は、平成25(2013)年度から年々増加傾向にあり、社会問題としてテレビやネット、本や雑誌等で取り上げられることが少なくありません。では実際にどのくらいの子どもたちが不登校になっているのでしょうか。
国の調査では、令和元年度の小学校の不登校児童の割合は0.83%(120人に1人)、さらに中学校の不登校生徒の割合は3.94%(25人に1人)となりました。
島根県では不登校の児童生徒の総人数は1,230人となり、前年度と比較すると約20%増加しています(令和元年度の調査時点)。児童生徒1,000人当たりに換算すると24人が不登校になっており、宮城県と並んで全国ワースト1位となっています。
不登校の要因としては、児童生徒の「不安」や「無気力」が上位となっており、「いじめ」は多くはありません。
しかし、数字だけでわかることは少なく、不登校に至った背景には本人・家庭・学校に関わる様々な要因が複雑に絡み合っていることが多いです。児童生徒本人に起因する特有の事情によって起こることがすべてではなく、子どもたちを取り巻く環境によっては、誰にでも起こり得ることとして、予防・サポート体制を考えていくことが重要です。
令和元年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について 文部科学省
令和元年度生徒指導上の諸問題に関する状況について 島根県
学校での相談
子どもが不登校になった場合、まず相談できる身近な場所として学校があります。
子どもたちが一日の多くの時間を過ごし、家族とは異なる人間関係の中で遊んだりルールを守ったりして、対人関係や社会性を学んでいます。担任の先生や養護教諭など、家族が知らない子どもの一面を知っているかもしれません。どの部分につまずきや次の課題があり何に困っていそうなのか、あるいはどのようなサポートがその子に合っているのかなど、子どもを多面的に見る立場にいるため、学校の先生への相談は支援をするうえでとても重要です。
また、学校にはスクールカウンセラーが配置されています。スクールカウンセラーとはこころの専門家であり、子どもたちを心理的側面から支援しています。また、不登校の支援は、子どもへの支援だけでなく保護者の方へも必要になり、スクールカウンセラーは保護者のみでも利用することができます。詳しくは、スクールカウンセラーの項目を参照ください。
家庭の経済状況、保護者の病気などによって子どもが不調をきたすこともあります。この場合、福祉機関との連携が必要になることがあります。島根県はスクールソーシャルワーカーの効果的な活用を進めています。スクールソーシャルワーカーについてはこちらを参照ください。
不登校対応の手引き~不登校児童生徒へのよりよい支援のために~
平成15(2003)年、島根県教育委員会は学校現場でより不登校に関する正しい理解に基づいた適切な指導・助言が行われるよう「不登校対応の手引き~不登校児童生徒へのよりよい支援のために~」を作成しました。
手引きには以下のような支援例が紹介されています。
- 家庭訪問による支援(学習支援、先生との関係性の構築など)
- 電話、メールなどによる連絡
- スクールカウンセラーなど心理の専門家によるカウンセリングの実施
- 相談室、ホットルームなど、教室以外の居場所の学校内への設置
- 関係機関、適応指導教室や民間の施設の紹介
- 同じ悩みをもつ保護者の出会いの場の設定や「親の会」の紹介
その他にも自治体や学校ごとに様々な取り組みが行われています。「子どもが不登校になったけど、どこに相談すればいいのか分からない」と思われる方も少なくないかもしれません。まずは学校へ相談してみましょう。その子にあった支援方法や支援機関が見つかるかもしれません。
不登校対応の手引き~不登校児童生徒へのよりよい支援のために~ 島根県教育委員会
保健室登校、相談室登校ってどういうこと?
保健室登校や相談室登校(別室登校ともいわれることがある)など、教室に常時いることができなくても、学校の中で安心できる場所を見つけ、学校にいる間はそこを主として活動をしている児童生徒もいます。「学校に行ったらまずは保健室で気持ちを整えて、2時間目から教室で授業に参加する」「教室に入ることは難しいが相談室にいることはできるので、相談室で学習をしている」など、子どもによって保健室登校や相談室登校と言っても過ごし方はさまざまです。
2016(平成28)年度の調査では、保健室登校をしている児童生徒がいる学校の割合は以下のような結果となりました。
小学校:32.4%
中学校:36.5%
高等学校:36.8%
保健室登校は①長期的な不登校から“復学に向けてステップアップ”の段階に取り入れられる場合と、②通常教室に通えていたのにあるときから保健室にしか行けなくなった際の“一時避難場所”となる場合とがあります。さらに、不登校になると学校以外への外出が難しくなり、家から出られず昼夜逆転したり引きこもってしまったりすることがありますが、保健室登校により生活リズムが保たれ、社会との接点を保つことにもなるのです。
ただし、保健室登校にもデメリットがあります。例えば、①同級生や先生に会うかもしれないという不安にさらされる、保健室登校や相談室登校は不登校で家にいることに比べて同級生に会ったり、先生と接したりする機会を避けられません。子どもの中には「さぼっていると思われているんじゃないか…」「『なんで教室に来ないの?』と聞かれたらどう答えたらいいのだろう…」と罪悪感やプレッシャーにかられてしまうことがあるようです。
社会人が心身の不調でしばらく会社を休んだ場合、いきなり職場復帰するのではなく、軽作業や勤務時間の短縮などの慣らし期間を経て職場に戻っていくように、児童生徒も学校に復帰するためには保健室登校や負担のない授業編成が必要でしょう。保護者は「最初から教室で全力を出すのではなく、保健室(相談室)で気持ちの準備をする必要があるんだよ」と説明したり、「恥ずかしいことをしているわけではない」と伝えて自信を持たてあげたりすることが大切です。また、担任の先生に対して、クラスの子にもそういう話をしてもらえるようお願いしておくとよいでしょう。
保健利用状況に関する調査報告書平成28年度調査結果 公益財団法人日本学校保健会
保健室登校とは 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
不登校になった子どもたちの居場所って?
「周囲に溶け込むので精一杯で疲れてしまう」「本当は一人で読書をしていたいのに、一人でいると“はみご”と思われそうでいやだ」「人数が多い教室は、いろいろと気を遣うので緊張してしまう」と考える児童生徒は少なくないようです。
子どもにとって自分らしく過ごせる空間は人それぞれであり、現在登校している教室や学校制度そのものが、苦痛を強いるだけになっていることがあります。
大人は休養や職業訓練にて元の職場に戻るだけでなく、自分の能力を活かせる職業、自分らしくいられる職場を探して転職することによって職業生活に復帰します。しかし、子どもには能力や自分らしさにあった教育環境を自由には選択はできません。
大人が休職から復帰するのと同様、子ども不登校も、元の学校に戻ることだけが目標なのではなく、子ども一人ひとりの能力や個性に応じて、それぞれの可能性をのばせるような状況や場所を見つけることが重要になります。
その選択肢として、教育支援センター(適応指導教室)やフリースクールがあり、学習生活、集団生活、自立活動などを自分にあった方法で送ることができます。
●教育支援センター(適応指導教室)
教育支援センターとは、「不登校児童生徒等に対する指導を行うために教育委員会及び首長部局が、教育センター等学校以外の場所や学校の余裕教室等において、学校生活への復帰を支援するため、児童生徒の在籍校と連絡をとりつつ、個別カウンセリング、集団での指導、教科指導等を組織的、計画的に行う組織として設立したもの」であり、別名「適応指導教室」と言われています。なお、単に相談を行うだけの施設は含まれず、学習面での支援や、社会的自立、居場所の提供、自信・自尊心を持たせることを重要と考えて活動している施設も多くあります。
2019(令和元)年の調査では、全国の約6割の自治体で教育支援センターが設置されています。島根県でも市町村によっては複数箇所設置されているところもあり、県全体では12カ所が設置されています。※2020(令和2)年現在
教育支援センターには、次のような特徴があります。
対象:市内の小学校及び中学校に在籍している児童生徒。 ただし、施設によっては、他の市町村の学校に在籍している児童生徒であっても、教育長が認めた場合は入級できると定めている施設もあります。
定員:施設によって定員は異なります。在籍している児童生徒が定員に達している場合、入級することが困難な場合もあります。
開設時間:施設によって異なりますが、平日の午前中から通常の下校時間よりも少し早い15時頃までが一般的です。教育支援センターの職員の多くは教員免許を持っているため、教育支援センター滞在中には学習指導を受けることができます。もちろん、かならず学習をしなければならない、ということはなく、グループ活動やスポーツ、創作活動などを行って過ごすことも可能です。また、途中で帰宅すること、教育支援センターから学校へ通うことも可能です。教育支援センターの通所は学校の出席扱いにもなります。
時によっては、学校の担任の先生が配布物を教育支援センターに持ってきてくれたり、「調子はどう?」と様子を見に来てくれたりすることがあります。筆者の経験上「学校に行くのは嫌だけど、先生と会うのは嬉しい」と言う児童生徒は少なくありませんでした。
教育支援センターごとにホームページが作成されている場合も多く、活動内容や目標、ある1日のスケジュール等が確認できますので、ぜひ最新の情報をご確認ください。
※似た名称に「教育センター」があります。
教育センターは、各市町村や地方公共団体が主体となって設置した、教育一般、特定の教育領域、教育テーマなどに関する研究や調査、教育技術研修を企画・運営などをする施設です。教師に関わりの深い機関が「教育センター」、児童生徒に関わりの深い機関が「教育支援センター」と覚えておくとよいでしょう。
不登校に関する調査研究協力者会議フリースクール等に関する検討会議合同会議(19回)配布資料 (mext.go.jp) 文部科学省
教育支援センター 島根県
松江市青少年相談室(ふれあい教室) 松江市
出雲市教育支援センター(すずらん教室、光人塾、すずらん教室) 出雲市
●フリースクール
フリースクールは教育支援センターと異なり、受け入れ対象は不登校の児童生徒に限りません。
教育支援センターはその設置者の多くが自治体であるのに対し、フリースクールは個人や民間の企業、NPO法人が運営していることがあります。また、教育支援センターとの大きな違いとして、目的も挙げられます。教育支援センターの目的は「学校生活への復帰を組織的、計画的に支援する組織として設置したもの」とされていますが、フリースクールでは特に決まった目的は定められていません。そのため、フリースクールによっては、学校復帰を目的としている場所もあれば、学校復帰は必ずしも目的としておらず、仲間との触れ合いや社会との接点の場、社会的な自立を目的としているスクールもあります。
その他にもフリースクールには以下のような特徴があります。
対象者:施設によって年齢制限が異なりますが、基本的に小学校低学年~20歳くらいまでを対象としているスクールが多いです。
費用:平均的に月2〜3万円程度
※教育支援センターの多くは教育委員会が運営をしているため、審査を通過すると無料で利用ができます。一方、フリースクールの多くは民間運営であるため、料金が発生します。
利用時間:スクールによって様々ですが、適応指導教室と比較すると自由度が高いです。 必ずしも毎日通わなくても良く、通っている児童生徒の好きな時間に通所し、自分の決めた時間に帰宅することもできます。子どもの好きなことを自由に活動できる時間を設けているスクールも多いようです。
※小中学校への出席扱いについては、教育委員会と連携をしてフリースクールへの出席が学校への出席扱いとなるスクールもあります。
教育支援センターとフリースクールは、上記のような特徴の違いが挙げられます。 教育支援センターは復学を目指している人に向いており、フリースクールでももちろん復学を目標に通うともできますが、現在不登校であり、仲間づくりをしたい人、通信高校を卒業したい・高校卒業認定試験に合格したい人、社会的な自立を目指している人等が向いています。
民間のフリースクール等 島根県教育委員会
不登校の子たちの進路は…?
不登校を経験していても、後に高校や大学へ進学したり、一般企業へ就職したりして社会的に自立している方は大勢います。また、それを支えてくれる団体や機関も豊富にあります。
●中学から高校への進学
不登校になった場合、進路希望の高校を通信制や定時制に限定される方(子ども本人だけでなく、保護者の方も)が多く見られますが、全日制の高校に進学することも可能です。中学校で不登校になっても、高校に入ってから学びの場や周囲の友人関係などの環境が変わることで通学できるようになる子ども少なくありません。
全日制 | 定時制 | 通信制 | |
---|---|---|---|
入試 | 学力試験(内申書) | 学力試験と面接 | 多くの場合は書類審査と面接 |
制度 | 学年制 | 学年制と単位制 | 多くの場合は単位制 |
通学 | 毎日 授業は朝から夕方まで |
毎日 “日中のみ”,“夜間のみ”と時間によって、学ぶことが可能 |
学校によって異なるが、毎日から年間数日など幅広く定められている |
卒業年数 | 3年 | 3〜4年 | 最短で3年 (学校毎に卒業年数の期限が定められているところもある) |
●高校生で不登校になった場合は?
高校生での不登校は、義務教育である小学校や中学校と異なって期限があります。進級するためには、学校に登校して授業に参加して単位を取得しなければならないからです。そのため、単位取得が可能な期限内に復学できるかどうかが進級を考える上で大きなポイントとなります。
高等学校で不登校となり、期限内に復学できなかった場合、
- 留年し、もう1年同じ学年で学ぶ
- 中途退学し、定時制高校や通信制高校など別の学校へ転校する
- 中途退学し、就職する
などの選択肢が考えられます。全日制高校への転校も可能ですが、編入試験に合格する必要があります。そのような場合、編入の申込み期限が決まっているので、タイミングや子ども自身の学力、モチベーションも必要になります。
国の調査(平成26年度)では、不登校生徒の約3.5人に1人が中途退学に至っているというデータもあり、高校生の子どもが不登校になってしまった場合、在籍する高校との早急な連携が必要になります。
教育支援センターでは、受け入れ対象を小中学生としている所がほとんどですが、フリースクールでは年齢制限がやや広がり、20歳ごろまでの生徒を受け入れている施設があります。ただし、フリースクールはNPO法人やボランティア団体が運営している機関であって学校ではないため、高校卒業資格は得られません。
高校を中途退学した場合の高校卒業資格は、高校卒業程度認定試験(いわゆる高卒認定試験)を受験するか、あるいはフリースクールと定時制高校や通信制高校を併用する等の方法で取得することは可能です。高校卒業程度認定試験を合格すれば、高校を中途退学していても専門学校や大学を受験できることができるようになります。
通信制高校は、法律で定められた高等学校となるため、卒業することで高校卒業資格が得られます。通信制高校の学習環境は、学校で学ぶのではなく自宅学習を中心に学習をすすめますが、年に数日間、学校へ登校するスクーリングがあります。スクーリングの日数は通信制高校によって変わります。金銭的に余裕がない、大勢の人がいる所にいくのが不安など、通学の負担が大きい場合にはスクーリング日数の少ない高校を選ぶとよいでしょう。
不登校になった生徒にとって、通学する機会の少ない通信制高校や、通学しても“昼間のみ”“夜間のみ”と学習する時間が決まっている定時制高校への編入は、自分にあった“学びの場”の選択であり、「学びたい」「自立したい」と考えている人にとって大きなサポートとなります。高校卒業資格を得ることができるのも大きなポイントでしょう。定時制、通信制高校に通う生徒は10代に限らず、一度就職したものの再び「学びたい」と感じた人が入学している場合も多いので、幅広い年齢の人が在学しています。また、通信制高校によっては、高校生活に慣れ、通学できるようになったら通学日数を増やしたり、全日制へ転入したりする制度を設けている高校もあります。
高等学校における不登校生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の対応について 文部科学省
通信制高校での過ごし方 通信制高校ライフ
他に相談できる場所は…?
子どもだけでなく、保護者の方からの相談を受付けている機関もあります。
教育支援センターでは教育相談の時間を設け、子どもの不登校やいじめ、友人関係や発達の悩みなど、相談内容によって専門機関と連携をしながら相談に応じています。その他にも以下のような相談機関があります。
●島根大学こころとそだちの相談センター
こころとそだちの相談センターは、島根大学松江キャンパスに本室を置き、2018(平成30)年5月には島根大学出雲キャンパス内に出雲分室が開設されました。
対象は子どもから大人まで、さまざまなこころの悩みや症状をもつ方々の相談を受付けています。
カウンセリング、プレイセラピー、箱庭療法、心理検査など、臨床心理学の専門的な手法によって相談に応じています。
料金は1000〜3000円となり、相談時間や相談体制によって料金が決まります。
詳しい情報や、予約方法はホームページをご確認ください。
こころとそだちの相談センター 島根大学
●親の会
不登校の子どもをもつ保護者が主体となり、情報交換や相談、活動を行っている会があります。各自治体によって名称は異なりますが、不登校の子どもをもつ保護者同士が交流する場となり、支援機関等の情報交換や同じ境遇の方々と悩みを相談し合い、その不安な気持ちやこころの負担を軽減する場として活用されています。
島根県でも、各市町村や「親の会」が設立されています。会によっては、講演会が開かれたり、保護者同士で軽スポーツが行われたり、様々な活動が計画されています。
また、直接顔を合わせて話をするだけではなく、SNSやインターネットを利用して交流する「親の会」も設立されています。
親の会 島根県