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いじめ対策

『いじめ』という言葉を一度は聞いたことがあると思います。
しかし「どのような行為がいじめになるのか」ということになると、これを明確に理解している人は多くはありません。金品を巻き上げる、集団で無視をするなどをいじめだと判断できても、児童生徒でよくみられるちょっかいや悪口を「いじめ」と判断してよいものか迷ってしまいます。大人でさえ判断に迷う「いじめ」ですので、子どもはもっと悩んでいるかもしれません。「友達からちょっかいをかけられて辛いけど、これっていじめなのかわからない」といじめられているのに大人に相談できなかったり、「これはみんなで悪ふざけをしているのであっていじめではない」と集団いじめに加担してしまったりするリスクに繋がってしまうのです。
そこでこの記事ではいじめについて説明し、どのような対処が可能か、どのような支援があるのかをお伝えします。

どのような行為がいじめなのか?

どのような行為がいじめになるのかはいじめ防止対策推進法(平成25年)によって定義されています。

「いじめ」とは、児童生徒に対して、当該児童生徒が在籍する学校に在籍している等、当該児童生徒と一定の人間関係にある他の児童生徒が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているものをいう。

いじめの定義は年々変化しており、以前のいじめの定義は以下の通りでした。

①自分より弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。

以前の定義では、いわゆるガキ大将のような児童に対してクラスの子ども達が集団で危害を加える行為や暴言や暴力があっても本人が深刻な苦痛がないと言えば、いじめとして認定することは困難でした。しかし、現在の定義では力の強弱に関わらず、当該行為によって被害者が少しでも苦痛を感じれば、発生した場所を問わずいじめとして認定されるようになりました。時代とともに変わるいじめの様態を見逃さないよう、常にいじめの定義は変わっているのです。しかし近年では、ソーシャルネットワークサービス(以降SNS)を利用して、陰口、嫌な役割を押し付ける、いやなあだ名で呼ぶ、みんなで無視する「コミュニケーション操作系のいじめ」が増加しており、この場合、全く面識のない他校の児童生徒がSNSを介して誹謗中傷するなど、従来のいじめの定義では捉えにくい現象が生じています。いじめの定義に縛られすぎない柔軟な判断が必要といえるでしょう。

いじめ防止対策推進法 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1406848.htm
いじめの問題に対する施策 文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1302904.htm
いじめの定義の変遷
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/03/19/1302904_001.pdf

島根県のいじめの状況は?

全国的にいじめの認知件数は増加しており、島根県も同様の推移となっています。
平成30年度、島根県の認知件数は2,679件(前年度比882件の増)であり、学年としては小1、小2、小6、高1、高2が前年度に比べて顕著に増加しています。また1,000人あたりの認知件数を全国平均と比較すると、全国は40.9件、島根県は37.1件となりました。
いじめの様態では、「冷かしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」が最も多く、次いで「軽くぶつかられたり、たたかれたり、蹴られたりする」が多くなっています。
中学校1年次や高等学校1年次でも、前学年と比較すると例年増加傾向が見られます。これは、全国的にも同様な傾向が見られ、中学校、高等学校への入学という環境変化によるストレス、思春期特有の心理的な不安や葛藤などが背景として考えられます。

これらの調査結果から「年々いじめが増加している」と判断することはできません。
例えば、平成17年までは調査対象が「発生件数」だったが、平成18年度からは「認知件数」になり、周囲の児童生徒が見たり聞いたりした件数が計上されたために件数が増加したと考えられるほか、学校がいじめを積極的に認知して早期対応を図っており、いじめを見逃さない・見過ごさない学校づくりが進んでいることも理由として考えられます。また、平成24年は大津市男子中学生いじめ自殺事件が発生し、メディアの報道をきっかけに全国のいじめ調査が増加。翌年平成25年にはいじめ防止対策推進法が可決成立し、いじめの定義が大きく変更されました。いじめの認知と認定の件数が増加してしまうのです。いじめの理解と認知が進むことは良いことですが、見かけ上の『いじめの増加』に翻弄されて過度に悲観したり過敏に反応したりする必要はありません。

平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について 文部科学省初等中等教育局児童生徒課
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/10/25/1412082-30.pdf
平成30年度生徒指導上の諸課題に関する状況について ※令和2年8月時点での最新データ 島根県教育指導課
https://www.pref.shimane.lg.jp/education/kyoiku/anzen/ijime/mondaikoudouchosa.html

いじめへの対応

島根県は、市町村、学校、家庭、地域などと連携しながら効果的にいじめ防止のための対策をすすめられるよう、平成26年に『島根県いじめ防止基本方針』(平成30年5月に一部改訂)を作成し、いじめ問題に対する役割として、島根県と市町村は学校への指導や支援体制の整備を、学校は防止対策や早期発見、教育による心の育成が明記されただけでなく、保護者には子どもの人権感覚の育成、児童生徒にはいじめを放置しないような努力や自らの相談行動なども明記されています。その他にも、県と学校がそれぞれ実施する取り組みや対応、警察や児童相談所などの関係機関との連絡体制の整備、インターネット上のいじめへの対策、重大事態への対応方法などが明記されています。

島根県いじめ防止基本方針 島根県教育指導課
https://www.pref.shimane.lg.jp/education/kyoiku/anzen/ijime/ijime_houshin.html

子どもがいじめを受けていたらどこに相談すればいい?

もし子どもがいじめを受けていることを保護者に話すことができたら、まずはしっかりと子どもの気持ちを受け止めましょう。いじめを受けて辛かった気持ちや悲しかった気持ちはもちろん、保護者にそのことを話すこと自体がとても勇気のいることなのです。
子どもから話を聞いた後は、学校へ相談をしましょう。子どもの中には「先生に話したら余計にいじめられてしまうかもしれない」「先生が指導したとしてもその後の仕返しが怖い」と思ってしまいます。学校は子どもや家族から訴えを聞いてもすぐに加害者をたしなめたり加害児童の保護者に働きかけたりすることはありません。いじめを受けた子どもと保護者の不安をくみ取りながら順次対応してくれます。ですので、安心・安全に学校へ通えるようになるため、そして大切な命を守るためにも家族だけで抱え込まず学校に相談をしましょう。

いじめ問題対応の手引き 島根県教育指導課
https://www.pref.shimane.lg.jp/education/kyoiku/anzen/ijime/izime.html

明らかに子どもの様子や言動がいつもと違うのに、子どもはいじめを受けていると言わない場合があります。島根県は、子どもがいじめにあっているかどうかを知る手がかりになるよう『いじめ発見のための家庭用チェックリスト』を作成しています。チェックシートで子どもの様子を確認し、心配な事柄が思い当たるようであれば学校の先生やスクールカウンセラーに相談してみましょう。

いじめ発見のための家庭用チェックリスト 島根県教育委員会
https://www.pref.shimane.lg.jp/kyoikusido/index.data/check-sheet.pdf

学校に相談しにくい場合には、県や市町村、島根大学の相談機関などが利用できます。相談機関によっては対面ではなく電話やSNSを使った相談も可能です。自分にあった相談方法で相談してみましょう。
料金や相談時間、相談方法については各機関によって異なりますので、最新の情報をご確認ください。

不登校・いじめについての相談窓口 島根県教育委員会
https://www.pref.shimane.lg.jp/education/kyoiku/iinkai/sodan/hutoukou_ijime.html

自分の子どもがいじめをしていることを知ったらどうすればいい?

いじめは被害者と加害者の問題だけではなく、以下の4層構造が問題になることが分かっています。

  • 被害者:いじめられる人
  • 加害者:いじめる人
  • 観衆:はやし立てる人
  • 傍観者:見てみぬふりをする人

観衆はいじめに加わっている事になり、傍観者はいじめを認めている事になります。

やさしく解説しまねっ子ニュース 島根県広聴広報課
https://www.pref.shimane.lg.jp/admin/seisaku/koho/photo/195/9.html

「うちの子に限って、誰かからいじめられることはあっても誰かをいじめることは無い」と多くの保護者は考えますが、上記の通り、被害者に対していじめに参与する人数の方が圧倒的に多いため、「うちの子がいじめられたら」ではなく「うちの子がいじめていたら」の方が、心配としては妥当かもしれません。子どもが他の子をいじめていることが分かった、もしくはその可能性がある場合、家族だけで解決しようとせず、まずは学校に相談しましょう。一般的に何かトラブルが起きると、被害者と加害者ができてしまい、加害者は罰し、被害者は支援することばかりが目指されてしまいます。しかし、加害者になってしまった児童生徒にも、実は学習の遅れの不安、習い事の負担、先輩からの圧力、家庭内のストレスなどがあり、適切なサポートやケアが必要になる事があるのです。
学校に相談しにくい場合には、県や市町村、島根大学の相談機関などが利用できます。相談窓口は上記に紹介しました「不登校・いじめについての相談窓口」になります。

もし子どもからいじめの目撃の報告を受けたらどうすればいい?

すぐに学校や県や市町村の相談機関に相談しましょう。いじめの4層構造で傍観者の立場にいる子どもにとっては「自分が話したのがばれたら、今度は自分が標的にされる」「自分がひどい目にあう」と不安になることでしょう。しかし、直接被害にあっていなくても繰り返されるいじめを見過ごすことで、将来にわたって強い後悔の念に駆られてしまうだけでなく、生徒たちがクラスに対して「正義を行えばバカを見る」と悲観的な態度につながってしまいます。国立教育政策研究所の報告では、海外では年齢とともに傍観者が減り仲裁者が増えるのに対し、残念なことに日本では傍観者は増え続けても仲裁者は増えないという実態があります。

誰かに相談することはとても勇気がいることですが、被害にあっている友達を守るだけではなく、自分の気持やクラスを守ることにもつながります。子どもから「友達がいじめられているかもしれない」と相談をうけた際には、「必ずあなたを守ること」「あなたの話で助けられる人がいること」を伝え、学校やその他の相談機関に相談してください。

傍観者の出現率の学年別推移

表1:「傍観者」の出現率の学年別推移 https://stopijime.jp/data/data004.html

仲裁者の出現率の学年別推移

表2:「仲裁者」の出現率の学年別推移 https://stopijime.jp/data/data004.html

平成17年度「教育改革国際シンポジウム」子どもを問題行動に向かわせないために~いじめに関する追跡調査と国際比較を踏まえて~」
https://www.nier.go.jp/symposium/sympoH18/h17sympo18221j.pdf

その他のいじめ対処法

NPO法人「ストップいじめ!ナビ」では、いじめや被害を解決するための方法「いますぐ役立つ脱出策」、いじめに関する裁判例や統計など様々な情報を掲載しています。サイトでは子どもが自分を守るための方法だけでなく、教師や保護者が子どもを守るための方法も掲載されていますので活用してみましょう。
なお、NPO法人代表の荻上チキさんは、いじめを被害者、加害者、傍観者などの個人の問題にしすぎるリスクを指摘しています。つまり、いじめを個人の問題とみなすことで加害者には教育を、被害者には援助要請のトレーニングをさせことになり、いじめ問題を『自己責任』に転嫁してしまうことになるのです。荻上チキさんは、多忙な教員の勤務状態が改善されることでいじめも改善する可能性に触れ、いじめ問題改善のための教員労働問題の改善に触れています。

貧困や虐題などの問題は福祉サービスを利用して改善を図ることができれば、学校に問題を持ち込まずに済み、教員の業務負担を減らすことができます。教員の業務負担が軽減されれば、教員が児童生徒に目を向ける時間が増加し、いじめが生じにくい環境ができるのです。地域住民が適切に福祉サービスを利用することで、子ども達のいじめ問題が解決するかもしれません。

ストップいじめ!ナビ いじめを止めたい大人たちへ
https://stopijime.jp/adult/index.html

スクールロイヤーについて

いじめに対応する学校外の機関として、スクールロイヤーという制度があります。
いじめだけでなく、学級崩壊、不登校、体罰など、法律の専門家である弁護士がこれらの問題を解決し、問題の前段階から学校へアドバイスするのがスクールロイヤーです。
文部科学省は2020年度より各都道府県の教育事務所や政令指定都市など全国に約300人を配置する方針を決めました。
スクールロイヤーは法的側面から「いじめの予防」「教員の業務効率化」の役割を担うことを期待されています。具体的な仕事内容は以下の3点です。

①法的側面からのいじめの予防教育

弁護士が、実例を示しながら、人権を守ることの重要性やいじめの法律上の扱いについて教える事業モデルの構築や今後の予防策の検討。

②学校における法的相談への対応

児童生徒を取り巻く問題について弁護士に相談し、法的アドバイスを受けることや、教員向けの研修会を受けることが、生徒指導上の諸問題の効率的な解決に資すること。

③法令に基づく対応の徹底

学校において、いじめ防止対策推進法等に基づいて、いじめ問題への対応が徹底されているかを法的側面から確認すること。

現在、島根県内にスクールロイヤーを配置する自治体はありませんが、活用にむけて体制を整備しています。

現在、島根県内にスクールロイヤーを配置する自治体はありませんが、活用にむけて体制を整備しています。

いじめ防止等対策のためのスクールロイヤー活用に関する調査研究 文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/131/131_1/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2019/07/02/1418375_008_1.pdf