各種児童福祉関連施設
「子どものことについてどこに相談に行ったらよいのか質問したら、児童相談所へ相談するよう勧められた。私は虐待なんてしていないのに!」
これは実際にあった話ですが、それって大きな誤解かもしません。児童相談所は、虐待だけでなく一般的な健康相談や子育ての相談などを幅広くかつ専門的に対応する児童福祉施設なのです。
その他の児童福祉施設も「私には関係ない」との誤解や「何をしているのかわからないので利用しづらい」との不安が生じやすいのが現状です。
この記事では代表的な児童福祉施設と子育てに関する施設についてその目的や利用方法などを説明します。
なお、島根県のホームページには県内の児童福祉施設名と所在地、連絡先が掲載されていますので参照ください。
https://www.pref.shimane.lg.jp/education/child/kodomo/gyakutai/sisetuitiran.html
児童相談所
児童福祉法第12条に基づいて、各都道府県に設けられた児童福祉の専門機関です。
対象は同法4条の定める児童(0歳から18歳未満)で、親からの相談だけでなく、地域の住民や学校関係者、また子ども本人からの相談にも対応しています。
子どもを持つ家庭や地域などからの相談に応じ、子どもに関係する問題や環境を把握したうえで効果的な援助を図ることを目的としています。
具体的な業務内容には大きく分けて以下の4つがあります。
- 市町村への情報提供:市町村に対して情報を提供する、市町村間の情報共有だけでなく、市町村職員への研修も実施する。
- 相談と専門的援助:家庭や地域市民などからの相談のうち、専門的な知識や技術が必要なものに関して援助を実施する。
- 児童の一時保護:必要性があると判断した場合、子どもを家庭から離して一時的に保護する。
- 指導と措置:児童福祉司や児童委員などが子どもや保護者を指導する。必要に応じて、子どもを児童福祉施設などに入所させる。
相談業務に関しては以下に大別されています。
- 養護相談:虐待及び虐待と思われる相談、父母の家出、死亡、離婚、入院などによる養育困難など
- 保健相談:未熟児、虚弱児、小児喘息など、様々な健康に関する相談
- 障害相談:知的障害、肢体不自由、発達障害などへの相談
- 非行相談:飲酒、喫煙、家出や深夜はいかいなどの不良行為相談、度重なる家出や深夜はいかい、暴走族や暴力団関係者など不道徳な人との交際などの虞犯相談、触法行為(刑罰法令に触れるものの子ども本人が14歳未満であるため刑事責任は問われない行為)への触法相談
- 育成相談:育児やしつけ、不登校や引きこもりに対する相談
- その他の相談:里親等の相談
児童相談所は相談業務に規定されている通り、保健相談、育成相談、障害相談など子どもに関する相談に幅広く応じています。発達障害かどうかわからないが、ことばが遅い、落ち着きがないなど子どもの行動や様子が気になるのならば保健相談を、子育ての不安や不登校については育成相談を受けられます。
また、保護者だけでなく学校関係者からの相談にも応じています。保護者の同意があると、学校と児童相談所は連携しやすくなるようです。積極的に相談利用をしてみましょう。
島根県中央児童相談所
https://www.pref.shimane.lg.jp/chuojiso/
児童相談所の概要 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv11/01-01.html
相談種別ごとの対応における留意事項 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv11/03-03.html
児童養護施設
児童養護施設(じどうようごしせつ)とは、児童福祉法第41条に定める児童福祉施設です。
家庭の貧困や保護者の病気、虐待などが原因で子どもと一緒に生活することが難しい場合、子どもを長期、短期、一時的に預かり、安定した生活環境の中で生活指導、学習指導などを行い、心身の成長と自立を支援します。また、退所後も自立に向けた相談支援をしています。
入所する子どもの対象年齢は原則1歳から18歳までですが、条件を満たせば20歳まで利用できる施設もあります。1歳から2歳の場合、児童養護施設ではなく乳児院を利用する場合も少なくありません。
在所の条件に18から20歳未満という年齢制限があるため、年齢制限を迎えるか就職して自立的な生活が可能と判断されたときに保護措置が解除され退所となります。
利用には児童相談所長の判断が必要となります。「生活が苦しいから子どもを預けたい」「子育てが負担なので預かってほしい」との理由だけでは利用は難しいですが、まずは困っていることを児童相談所に相談してみましょう。そうすることで、現状にあった適切な支援を受けることができます。
入所利用の料金は世帯収入に応じた料金が定められています。生活保護世帯は0円、所得に応じて月額数千円から高収入家庭になると月額10万円以上までさまざまです。
児童養護施設の職員には、施設長をはじめ、保育士、児童指導員、家庭支援専門相談員、心理療法担当職員、里親支援専門相談員が配置され、入所児童のサポートをしています。施設条件によっては看護師の資格を持った職員や栄養士や調理員を配置しているところもあります。このうち、児童指導員は子どもが健全に成長できるよう、日常生活や自立に向けた支援を、家庭支援専門相談員は家族との調整や保護者への相談対応をしています。
入所する子どもたちは、できる限り家庭的な落ち着いた雰囲気のなかで、安心・安定した生活を送っています。施設の職員は、保護者に代わって生活の支援や自立に向けたサポートをします。子どもたちは施設から学校に通い教育の機会も確保されるだけでなく、余暇や趣味を楽しんだり地域のさまざまな活動に参加したりすることもできます。これら生活支援にとどまらない幅広い支援によって社会的な自立を促しています。
児童養護施設は子どもの自立が大きな目的であるため、自立して支援が終了となるわけではありません。退所後もその自立が安定したものになるように様々な支援を行います。例えば、義務教育を修了した15歳の入所児童が全日制の高校へ進学を希望しない場合、児童養護施設の利用が難しくなります。この場合、生活場所を確保するために『自立援助ホーム』の利用を調整します。自立援助ホームを児童養護施設に代わる生活拠点に利用することで自立の足掛かりにすることができるのです。ただし、児童養護施設の料金が公費によって賄われるのに対し、自立援助ホームは月数万円程度の家賃を自ら稼いで支払わなければなりません。
家賃を支払うのならば、自立援助ホームではなく自分自身でアパートを契約すればよいのではと考えてしまうものですが、それは容易ではありません。というのも、アパートを契約するのも就職する際にも保証人が必要になり、保護者と連絡ができない子どもにとっては保証人を確保することが難しいのです。この場合『身元保証人確保対策支援事業』を利用することがあります。例えば、施設長等が児童の保証人となってアパートを契約した後、家賃滞納が生じると保証人である施設長が支払わなければなりません。『身元保証人確保対策支援事業』を活用すると国と都道府県等が賠償額の一定額を支払ってくれるのです。このようなサポートによって施設長等が保証人になる負担を減らし、保証人を引き受けやすくしているのです。
全国児童養護施設協議会 児童養護施設のご紹介
http://www.zenyokyo.gr.jp/intro.htm
全国児童養護施設協議会 児童福祉施設等に関する「身元保証人確保対策事業」
http://www.zenyokyo.gr.jp/mimotokakuho/mimotokakuho.htm
全国自立援助ホーム協議会
http://zenjienkyou.jp/%e8%87%aa%e7%ab%8b%e6%8f%b4%e5%8a%a9%e3%83%9b%e3%83%bc%e3%83%a0%e3%81%a8%e3%81%af/
乳児院
乳児院は「乳児(保健上、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、幼児を含む。)を入院させて、これを養育し、あわせて退院した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設(児童福祉法第37条)です。
児童養護施設と同様、家庭の貧困や保護者の病気、出産のために乳幼児と一緒に生活することが難しい場合、乳幼児を長期、短期、一時的に預かります。児童養護施設と違い、対象年齢は原則新生児から1歳頃までの幼児となっており、必要に応じて満2歳まで継続することができます。
職員には児童養護施設と同様、保育士や児童指導員などが配置されるほか、乳幼児は病気の管理の必要性が高いという観点から、医師や看護資格を持った職員が配置されることが多く、施設によっては病院に併設されることもあります。 乳児院の機能や役割として、
- 保護と養育:家庭の事情によって家庭で乳幼児を養育できないときに乳幼児を預かります。
- 保護者や里親の支援:乳幼児にとっては養育者である保護者や里親との関係はとても重要になるため、この関係を支える支援をします。
- 地域の子育て支援:育児の相談に応じたり子育ての場を提供したりすることで、地域の子育てを支援します。
利用には原則児童相談所で相談をすることが必要ですが、松江赤十字乳児院では入所相談を受け付けているようです。
利用料金は児童養護施設と同様、基本的には公費で賄われますが、所得により費用の一部を負担しなければなりません。
松江赤十字乳児院
http://www.mable.ne.jp/~mrc-nyuji-in/index.html
全国乳児福祉協議会
https://nyujiin.gr.jp/
児童心理治療施設(旧:情緒障害児短期治療施設)
児童心理治療施設は、「家庭環境、学校における交友関係その他の環境上の理由により社会生活への適応が困難となった児童を、短期間、入所させ、又は保護者の下から通わせて、社会生活に適応するために必要な心理に関する治療及び生活指導を主として行い、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設(児童福祉法第43条の2)」です。
以前は情緒障害児短期治療施設(略して『情短(じょうたん)』)と呼ばれていましたが、2017年4月から「児童心理治療施設」に名称が変更されました。
利用は児童相談所が適当と認めた場合に「措置」として決定されるため、利用申請をするようなことはできません。入所や通所が適当と判断された児童は児童心理治療施設に入所したり保護者の元から通ったりします。
対象者は、不登校や反抗、乱暴、窃盗、授業の妨害など周囲との関係を築くことができない心理的困難や苦しみを抱え、日常生活に生きづらさを感じている子どもたちで、心理治療が必要とされる子どもたちとなります。その中でも家族と暮らしていても状態の改善が見込めず、悪化してしまう恐れのある子どもは入所治療の対象になります。
知的障害児や精神科疾患の急性期の子どもは、他の支援機関の利用が検討されます。近年は、発達障害児の入所が増加していますが、発達障害そのものを治すのではなく、発達障害や被虐待経験などを背景とする不適応症状など、二次障害と呼ばれるものの治療・支援をしています。
対象となる子どもの年齢は児童福祉法の定める児童(18歳未満の者)ですが、条件によって満20歳まで利用することができます。
支援の柱には以下の3つがあります。
1、子どもへの直接な関わり
生活を通じて指導したり他の子どもとの関わりを支援したり子ども集団の中での居場所作りを支援したりします。心理的な治療には精神科医や心理職が関わります。不安や葛藤、怒りを適切に表現できるような支援やカウンセリングを行い、子どもの社会性の発達や精神的な成長を促していきます。一部の子どもたちには心理的な治療だけでなく、症状を軽くするための薬の処方が行われることがあります。
2、教育・学習支援
教育委員会と連絡を取り合いながら地域の学校に通学したり、施設内に設けられた教室や分校を利用したりします。施設内の学校でも教材や学習内容は地域の小・中学校と同じものなので、学習の格差が生じる心配はありません。これらの教育・学習支援によって、将来社会に出ていくときに必要な学力や主体的な学習態度を身につけていきます。
3、家族や関係機関に対するソーシャルワーク
子どもにとっては、自分に関わる多くの人たちがお互い助け合い、自分のことを大切に思って支援してくれると思えることが何より大切であり、そのような大人の中に入っていきたいと思えることで社会参加が進んでいきます。家族や関係機関とのネットワーク作りは、子どもへの直接の支援の舞台を支え、後方支援となるものであるとともに、退所して家庭や地域社会で暮らしていく時の支援体制の土台づくりにもなります。
心理的な困難を抱え生きていくことに希望を感じられない子どもたちは、周囲の人への猜疑心や警戒心が強いことが少なくありません。まずは子どもにとって安心安全な生活の場を提供することが必要です。安心安全な生活の場とは、物理的に衣食住が満たされていることではありません。
猜疑心や警戒心が強い子どもにあっては、大人から働きかけたり集団活動への参加を促したりすることは、極度の苦痛を与えてしまうことがあります。大切なことは子どもが自分のことは自分で決めるということであり、これにより周りから脅かされることなく自分の生活を営むことができるようになり、自分の生活への安心感を得ていきます。基本的な安心感が得られると周囲に関心を持つようになり、自分で決めて様々な活動に参加していき、主体性が育っていきます。そして、職員や施設の中の子どもたちとの生活の中で、相手や状況に合わせて自分をコントロールする力、お互いに折り合う力、また人に頼り相談する力など、地域社会で暮らしていくための力を身につけていきます。
児童心理治療施設ネットワーク
http://zenjishin.org/jotan.html
情緒障害児短期治療施設(児童心理治療施設)運営ハンドブック
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/syakaiteki_yougo/dl/yougo_book_4.pdf
児童自立支援施設
児童福祉法に定められた児童福祉施設である児童自立支援施設とは、「不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設」です(児童福祉法第44条)。
入所の経緯は、児童相談所の措置(児童福祉法27条1項3号)、家庭裁判所での審判による送致(少年法24条1項2号)がほとんどで、任意の入所はできません。
基本的には非行少年を対象としていますので、発達障害そのものに支援する機関ではありません。
発達障害の支援に関連することがある児童養護施設や児童心理治療施設と混同しやすいので注意が必要です。
全国児童自立支援施設協議会 http://zenjikyo.org/
まとめ
児童福祉関連施設の一部をご紹介しました。児童虐待の事件が印象に残るのでしょうか、児童福祉関連施設は児童虐待に対処する施設であるの認識が広がってしまっているようです。多くの児童福祉関連施設では児童虐待を取り扱いますが、業務内容は児童虐待に限定していないだけでなく、障害の有無に限らず子どもの健康や子育てなど幅広く支援を提供しています。特に児童相談所は幅広い相談支援に応じていますので、気になったことがあればとにかく相談、とりあえず相談をしてみましょう。
児童相談所 | 児童養護施設 | 乳児院 | 児童心理治療施設 | 児童自立支援施設 | |
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児童福祉法 | 第12条 | 第41条 | 第37条 | 第43条 | 第44条 |
対象年齢 |
0歳から18歳未満 ※児童福祉法の定める『児童』 |
原則1歳から18歳まで ※条件を満たせば満20歳未まで |
原則新生児から1歳頃まで ※必要に応じて満2歳まで |
原則18歳まで ※条件を満たせば満20歳まで |
原則18歳まで ※条件を満たせば満20歳まで |
目的 | 児童福祉の総合専門機関、児童相談所を通じて様々な支援が受けられる | 養育困難家庭に代わって児童を養育し、自立能力を養う | 養育困難家庭に代わって児童を養育し、自立能力を養う | 心理的困難を抱える子どもに対して心理的な治療や生活指導を行う | 非行少年への生活指導、自立能力を養う |
発達障害関連 | 発達障害に関する障害相談だけでなく、子どもの様子が気になる段階で保健相談や育成相談が利用可能。 保護者だけでなく学校からの相談も可能。 | 発達障害に対する支援施設ではないが、育児困難な状況に対し、長期、短期、一時的に子どもを預かり、子どもの心身の成長と自立を支援する。 | 発達障害に対する支援施設ではないが、育児困難な状況に対し、長期、短期、一時的に子どもを預かり、子どもの心身の成長と自立を支援する。 | 発達障害に対する支援施設ではないが、例えば、発達障害の影響をうけて心理的な困難に陥っている子ども達に対し、心理的な治療は可能。 | - |