各種手当・経済支援
障害、病気、高齢、失業などにより、自立的な生活が困難な場合には、社会保障を利用することができます。現金給付を受けたりサービスの支給を受けたりすることで、生活の安定を図ることができるようになるのです。
この記事では、特に発達障害に焦点を絞り、どのような経済支援がうけられるかを解説していきます。
社会保障の多くは申請に基づいて支給決定される『申請主義』となっています。行政から支援方法を提案してくるのではなく、私たちが情報を入手して申請をしなければなりません。是非、社会保障の情報に敏感になってください。
申請主義をどう乗り越えるか(前編)―本当に辛い時こそ「助けて」と言えない― 声なき声プロジェクト
特別児童扶養手当
子どもに対して支給される手当には大きく以下の3つがあります。発達障害では『特別児童扶養手当』を検討することができます。
①児童手当
全ての子どもに対して支給される手当です。児童手当は出生届と同時に申請書類を提出することになり、申請漏れは心配しなくてもよいでしょう。
・支給対象:
中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の児童を養育している方
・支給額:
3歳未満 一律15,000円
3歳以上 小学校修了前10,000円(第3子以降は15,000円)
中学生 一律10,000円
・支給方法
上記月額を、毎年6月、10月、2月に、それぞれの前月分までが支給されます。例えば、6月の支給日には、2~5月分の手当が支給されます。
②児童扶養手当
離婚によるひとり親世帯(父子家庭を含む)、家庭内暴力によって裁判所から保護命令がある親世帯などに対し、子どもを育成する家庭の生活安定と自立促進を目的に支給されます。
・支給対象
18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある児童(障害児の場合は20歳未満)を監護する母、監護し、かつ生計を同じくする父又は養育する者(祖父母など含む)。
・支給額
全部支給:43,160円
一部支給:43,150~10,180円
※加算額については下記厚生労働省のホームページを参照ください。
・支給方法
上記月額を、毎年1月、3月、5月、7月、9月、11月に、それぞれの前月分までが支給されます。例えば、3月の支給日には、2月分と合わせて手当が支給されます。
③特別児童扶養手当
精神または身体に重度・中度の障害を有する児童について手当を支給することにより、これらの児童の福祉の増進を図ることを目的にしています。
・支給対象
20歳未満の障害児を監護する(児童の面倒を見ており、通常必要な監督保護を行っていること)父母又は養育者に対して支給されます。
・支給額
障害の状況に応じて1級または2級が認定され、等級によって月額が異なります。
1級52,500円
2級34,970円
・支給方法
上記月額を、毎年4月、8月、12月に、それぞれの前月分までが支給されます。
障害の等級は、国民年金法施行令に定められている障害等級に準じて定められます。
1級は「『日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度』とは、他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のもの。例えば、身のまわりのことはかろうじてできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの。すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲が概ねベッド周辺に限られているものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲が概ね室内に限られるもの。」
2級は「『日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることが必要とする程度』とは、必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で、労働により収入を得ることができない程度もの。例えば、家庭内の極めて温和な活動(軽い捕食作り、ハンカチ程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの。すなわち、病院内の生活でいえば、活動の範囲が概ね病棟内に限られているものであり、家庭内の生活でいえば、活動の範囲が概ね家庭内に限られるもの。」と定められています。
より詳細な基準は、国民年金法施行令別表(第四条の六関係)や島根県ホームページの『受給資格』の項目を参照ください。
国民年金法施行令 別表(第四条の六関係) 障害等級 e-Gov法令検索
特別児童扶養手当について 厚生労働省
特別障害者手当・障害児福祉手当・特別児童扶養手当 島根県
障害児福祉手当
重度の障害をもつ児童に対して、その障害のため必要となる精神的、物質的な特別の負担の軽減の一助として手当を支給することにより、特別障害児の福祉の向上を図ることを目的としています。
・支給対象
精神または身体に重度の障害(身体障害手帳1級・2級の一部、療育手帳1度・2度の一部)があるため、日常生活で常に介護が必要な20歳未満の方に支給されます。20歳以上は特別障害者手当が支給されます。
・支給額と支給方法
月額14,480円(※2020年4月時点)が、原則として毎年2月、5月、8月、11月にそれぞれの前月分までが支給されます。
障害児福祉手当について 厚生労働省
特別障害者手当について 厚生労働省
各種手当の申請は各自治体の福祉担当課(児童手当は育児担当課)で行います。
必要書類に、自治体の指定する申請用紙のほかに、本人と対象児童の戸籍謄本(又は抄本)や診断書が求められることがあります。具体的な手続きは各自治体に問い合わせましょう。
就学援助制度
島根県では、経済的理由によって、就学困難と認められる学齢児童および生徒の保護者に対し、就学援助費を支給しています。下記の経費に対して援助費が支給されるため、経済的負担を負うことなく、子どもの学習環境を準備することができます。
・学用品費(各教科、特別活動の学習に必要な学用品(実験実習材料を含む))
・修学旅行費
・通学用品費(通学用靴、雨靴、雨がさ、上ばき、帽子等)
・校外活動費(校外活動に参加するために直接必要な交通費、及び見学料等)
・体育実技用具費(柔道着、剣道防具、スキー用具等)
・新入学児童生徒学用品費等(入学する者が通常必要とする学用品費等)
・クラブ活動費
・生徒会費(児童会費、学級費、クラス会費等)
・PTA会費
・卒業アルバム代等
・医療費(う歯、中耳炎など)
・学校給食費
・オンライン学習通信費
島根県では、子どもの学びを支える資金に関わる各種制度をご紹介しています。是非参考にしてください。
就学援助費用 島根県
就学・修学・就職のための給付・貸付・減免制度 島根県
3種の公的年金(老齢、遺族、障害)
公的年金には以下の3つがあります。
①老齢年金
高齢になったときに支給される年金です。
②遺族年金
国民年金または厚生年金保険の被保険者(いわゆる“一家の大黒柱”)が亡くなったときに、その人によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。
③障害年金
病気やケガによって生活や仕事が制限されるようになった場合に支給される年金です。老齢年金と異なり現役世代(20歳)から受給が可能です。
発達障害と知的障害は障害年金の障害認定基準では『精神の障害』に該当します。
障害年金申請時の3要件
障害年金は、障害のある人全員が受給できるものではありません。以下の3要件に留意しましょう。
1.初診日要件
加入している年金の種類、保険料の納付状況を確認することを目的に、障害年金を請求する対象となる病気や障害について、初診日を証明しなければなりません。その際、医療機関から発行された書類などの客観的資料が必要になります。
カルテの保管期間が5年間と定められているため(保険医療機関及び保険医療担当規則第9条)、ずっと以前に初診をされた方の場合、カルテが破棄されてしまっている可能性があります。昨今の医療機関は電子カルテを導入しており、データは特別な理由がない限り削除されることがないため、カルテ破棄の心配はほとんどありません。
2.保険料納付要件
初診日の前日までに保険料を納付しているか、もしくは保険料の免除を受けているかが確認されます。障害の初診日の前日において、下記の条件のいずれかに当てはまることが必要になります。ただし、初診日が20歳未満の人は納付要件を問われません。
条件1:20歳から初診日のある月の前々月までの期間の3分の2以上の期間について保険料が納付または免除されていること
条件2:初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に未納がないこと
3.障害認定日要件
障害の認定日に、障害年金の支給が必要な程度の障害等級に該当しているかが問われます。詳細は次項『発達障害の認定基準』で説明します。
各年金制度の加入の仕組み(基礎年金・厚生年金など)、詳細な受給要件(初診日要件、年金納付状況、診断書など)、支給開始時期、請求の手続きなどについては、日本年金機構にわかりやすく記載がありますので、そちらを参照ください。
老齢年金 日本年金機構
遺族年金 日本年金機構
障害年金 日本年金機構
年金請求書提出までの流れ(チェックリスト) 日本年金機構
発達障害の認定基準
日本年金機構の障害認定基準(平成29年12月1日改正)には、発達障害の認定について次の通り記載あります。※下線は筆者による
(1)発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものをいう。
(2)発達障害については、たとえ知能指数が高くても社会行動やコミュニケーション能力の障害により対人関係や意思疎通を円滑に行うことができないために日常生活に著しい制限を受けることに着目して認定を行う。また、発達障害とその他認定の対象となる精神疾患が併存しているときは、併合(加重)認定の取扱いは行わず、諸症状を総合的に判断して認定する。
(3) 発達障害は、通常低年齢で発症する疾患であるが、知的障害を伴わない者が発達障害の症状により、初めて受診した日が20 歳以降であった場合は、当該受診日を初診日とする。
(4)各等級に相当すると認められるものを一部例示すると次のとおりである。
障害の程度 | 障害の状態 |
---|---|
1級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ、著しく不適応な行動がみられるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの |
2級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しく、かつ、不適応な行動がみられるため、日常生活への適応にあたって援助が必要なもの |
3級 | 発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分で、かつ、社会行動に問題がみられるため、労働が著しい制限を受けるもの |
(5)日常生活能力等の判定に当たっては、身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。
(6)就労支援施設や小規模作業所などに参加する者に限らず、雇用契約により一般就労をしている者であっても、援助や配慮のもとで労働に従事している。したがって、労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること。
ポイントは次の通りにまとめられます。
・発達障害の種類は問わない
・発達障害の認定要件は、社会行動の困難の度合いであり、知能指数の高低や知的障害の有無は要件としない。
・知的障害を伴わない発達障害の場合、初診日要件に留意しなければならない。※後述
・就労しているために障害年金が認定されないことはなく、労働状況や内容を考慮して認定の可否が決定される。
「働いているから年金は受給できないと聞いた」「主治医に知的障害がないから年金受給の条件に該当しないと言われた」などを耳にしますが、それらの多くは誤解です。
障害年金の受給条件に関する正しい情報は、後述する相談窓口や専門家に確認しましょう。
障害認定基準(発達障害はp52~) 日本年金機構
障害年金ガイド 日本年金機構
発達障害の“初診日”に注意しよう
初診日が成人の前後にあるかによって障害年金の内容や要件が変わるため、発達障害の初診日については以下の点に注意しましょう。
(1) 知的障害を伴っている場合
初診日は『生まれた日』になります。知的障害は、先天性の病気と判断されるため、0歳時点での障害とされるのです。
(2) 知的障害を伴わない場合
初診日は『初めて医療機関を受診した日』です。
発達障害者支援センターや大学のカウンセリングルームなどの相談機関ではなく、医療機関を受診していることが条件となります。
(3) 精神疾患で医療機関を受診し、発達障害が判明した場合
社会人になってから精神不調をきたし、受診した精神科病院で初めて発達障害だとわかる方は少なくありません。この場合、精神疾患と発達障害が同一の傷病と判断され、精神疾患で初めて医療機関にかかった日が、発達障害の初診日と判断されます。
初診日が20歳前にある場合
・保険料納付要件が問われない
20歳未満には年金保険料納付の義務はありません。そのため、初診日が20歳より前にある場合、保険料納付がなくても他の要件を満たしていれば、障害年金を受給することができます。
・一定の所得制限がある
就労していて収入があり、かつ、扶養親族がない場合、所得額が一定の額を超えると受給できる年金額が制限されます。
・障害基礎年金での申請となる
会社員や公務員の方が加入する厚生年金に基づく障害厚生年金ではなく、国民年金に基づく障害基礎年金での申請になります。障害厚生年金の額は厚生年金加入月数や加入期間中の給与の額等に基づいて算出されますが、障害基礎年金は1級で年額約100万円(※)、2級で約80万円となります。
※発発達障害のみによる請求で1級の認定を受けられるケースは少ないとされています。
・20歳からでも受給可能
障害年金は、障害認定日(※)に障害等級1級または2級の状態にあれば、障害認定日の翌月から受給することができます。そのため、初診日が20歳前にある方は、条件がそろえば20歳になってから障害年金を受給することができます。
注:障害の診断を受けていても、20歳未満で障害年金を受給することはできません。未成年は特別児童扶養手当や障害福祉手当が支給され、障害年金の非対象者となるからです。
※障害認定日:障害年金は、原則初診日から1年6か月を経過しないと請求することはできません。病気やケガをして医療機関にかかり、治癒の見込みが低くなり“障害”と認定されるための期間として1年6か月が設定されているのです。知的障害を伴わない発達障害で障害年金を申請する場合、18歳6か月前に初診があれば20歳に至った時点で障害年金を申請することが可能となります。
初診日が成人後にある場合
・保険料納付要件が問われる
上記『障害年金申請時の3要件』の『2.保険料納付要件』の通りです。
・所得制限がない
就労などでえられる所得の額に応じて、障害年金額が制限されることはありません。
・初診日に厚生年金に加入している場合、障害厚生年金での申請が可能
給与に基づいて年金額が決定される障害厚生年金での申請が可能になります。障害が認定される以前に収入がある場合には、障害基礎年金の支給額よりも高くなる場合があります。
保険料納付要件の確認、受給総額の算出、各種の相談は、後述する相談窓口や専門家に確認しましょう。
病歴・就労状況等申立書の作成
病歴・就労状況等申立書は、障害年金を申請する際に提出しなければなりません。出生から現在に至るまでの状況、現在の障害の状態、就労している場合にはその内容などをできるだけ具体的かつ詳細に記述します。
具体的で詳細な内容を求められ、かつ、出生から現在までの長期間にわたる内容を記載しなければならず、難易度の高く負担も大きい書類です。
障害年金の申請者自身で作成することもできますが、後述する専門家に作成を依頼することも可能です。
病歴・就労状況等申立書を提出するとき 日本年金機構
病歴・就労状況等申立書記載要領 日本年金機構
年金の相談窓口や専門家を利用しよう
自分の状態が障害年金受給の条件に該当するかどうか、必要な書類は何か、どのように記載しなければならないのか、受給できるおよその年金額はいくらか、など様々な困りごとや疑問は年金事務所、市町村の国民年金窓口、地域の社労士(社会保険労務士)、『街角の年金相談センター(※)』に相談することができます。積極的に活用しましょう。
※『街角の年金相談センター』は日本年金機構から委託を受けて、全国社会保険労務士会連合会が運営している相談機関です。相談から書類の受付まで無料で対応してくれます。2021年3月現在、島根県内には設置がありません。
全国の相談・手続き窓口の検索 日本年金機構
社労士会リスト 全国社会保険労務士会連合会
街角の年金相談センター一覧 全国社会保険労務士会連合会
障害者扶養共催制度
保護者が子どもにお金を残す方法の一つに『障害者扶養共済制度』があります。
障害のある方を扶養している保護者が、自らの生存中に毎月一定の掛金を納めることにより、保護者に万一のこと(死亡・重度障害)があったとき、障害のある方に終身一定額の年金を支給する制度です。
掛け金が安い、掛け金の免除制度がある、障害年金と併せて受けることができるなどのメリットがありますが、途中で解約した場合に掛け金が戻ってこない、障害のある子どもが亡くなっても返還されないなどのデメリットもあります。詳しくは、下記のパンフレットを参照ください。
この記事で紹介した手当や経済支援はほんの一部です。インターネットの普及である程度、調べやすくなったとは言え、知らない制度や用語は検索することはできず、支援や制度に関する情報を自分一人で収集することは大変困難です。まずは、自治体や障害者団体が定期的に行っている制度の説明会などに参加し、どのような制度があるのかを知ることから始めてみましょう。