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幼児期の発達 こだわり・興味関心 感覚過敏・鈍感
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「噛む」「味わう」「特性」で幼児期の偏食・好き嫌いに対処する

幼児期の偏食・好き嫌いの主な要因は大きく分けて

  1. 食事の内容が咀嚼機能にあっていないことによる偏食・好き嫌い
  2. 食習慣・環境が整っていないことや食経験の未熟さによる偏食・好き嫌い
  3. 味覚の発達による偏食・好き嫌い
  4. 障害特性による偏食・好き嫌い

があります。それぞれの要因に応じた対処法が必要です。

お子さんに何らかの障害があるからといって、「04. 障害特性による偏食・好き嫌い」の要因で対処するのではなく、基本的には1→2→3→4の順で対処を検討していきましょう。この記事では特に幼児期の偏食・好き嫌いへの対処法についてそれぞれご紹介します。

食事の内容が咀嚼機能にあっていないことによる偏食・好き嫌い

生後1か月、赤ちゃんは反射的に母乳を吸います。生後5~6か月になるとそのような反射は少なくなり、食物を口に取り込もうとするようになっていきます。乳歯は生後7か月頃から生え始め、3歳頃までに生えそろいます。このような咀嚼の発達時期や子どもの咀嚼能力に食事の内容があっていないと、いつまでも食べ物が口に残るのでペッと出したり、丸呑みしたりしてしまいます。咀嚼能力に応じた食事内容にし、食材の切り方や形を見直しましょう。また、よく噛むことで飲みこみやすくなるだけでなく、口にとどまる時間が長くなり、おいしいと感じることにつながっていきます。

食事中に、子どもの頬がもぐもぐと動いているか、途中で口を開けてもらい食べ物が小さくなっているかをチェックしてみましょう。うまく噛めていなかったり、丸のみしてたりする場合は食材の形態や硬さを見直しましょう。参考:かむ力を育てる乳幼児の食事(千葉県健康福祉部健康づくり支援課、食と歯・口腔健康班)

自治体によっては、栄養士による幼児食の試食会や料理教室をしているところがあります。離乳食や幼児食の味や硬さを体験できるだけでなく調理の仕方について専門家に相談できるので、ぜひ利用しましょう。

出雲子育て支援センター

  • うきうき味見タイム(幼児食の試食会)… 栄養士が調理したものを試食して、幼児食について学ぶ。※離乳食が完了した子どもとその保護者が対象。
  • かみかみタイム(離乳食試食会)… 栄養士が調理した離乳食を試食し、離乳食について学ぶ。
  • もぐもぐごっくん離乳食教室(生後4か月~7か月)… 栄養士による講義、デモンストレーション。
  • わくわく離乳食教室(生後7か月~10か月)… 栄養士による講義、デモンストレーション。
  • pakupakuらんど離乳食教室(生後10か月~1歳6か月)… 栄養士による講義、デモンストレーション。歯科衛生士より口の機能について学ぶ。

食習慣・環境が整っていないことや食経験の未熟さによる偏食・好き嫌い

なぜ子どもに好き嫌いが発生するのでしょうか。幼児期前期(1歳半~3歳)までの偏食・好き嫌いは

  • 食事の習慣がまだ十分に形成されていない
  • 食品に慣れていない

ことによって生じることが多いと言われています。

食事の習慣がまだ十分に形成されていないことによる偏食・好き嫌い

幼児は食事の習慣や食具を使うことにまだ慣れていないために、勝手がわからず食事をする行動が不安定になることがあります。また、環境が整っていないと食事に集中できず、食べる量が少なくなることもあります。以下のような方法で対処しましょう。

決まった時間に食事する

いつもの時間に食事をすることを習慣にしていきましょう。日中は体を使って遊び、おなかをすかせることも食事に興味を持つために大切なことです。食事と食事、食事とおやつの間は2時間あけるようにしましょう。

椅子と食卓を調整する

椅子に座った時に食卓面が胸の高さになるようにしましょう。また、足の裏がついていることで噛む力を安定して発揮しやすくなります。足をのせられる板のある椅子を利用しましょう。椅子が身体に合っていない場合はクッションなどで調整してみましょう。

食事に関係ないものは片づける

食事中はテレビを切る、おもちゃは片づけるなど、遊びと食事を切り離しましょう。片づけ→手洗い→着席→エプロンをつける→「いただきます」をするといった一連の流れを決めて習慣にすると気持ちが食事へ向かいやすくなります。

彩りや盛り付け、器を意識する

おいしさを感じるのは味覚だけではありません。実は味覚よりも視覚の方がおいしさに影響することが分かっています。にんじんやかぼちゃ、卵、ブロッコリーなど色が鮮やかな食材を使って彩りよく盛り付ける、木製や陶器の器に盛ってみる、お気に入りのキャラクターの食具を使うなど、見た目に工夫することで食が進むことがあります。また、彩りの豊かな食事は自然と色々な栄養が取れ、バランスもよくなるのでおすすめです。普段より少なめに盛り付けることも食べる意欲を引き出すきっかけになります。“食べられた”という達成感を味わうこともできるのでやってみましょう。

家族で食卓を楽しむ

大人も一緒に食卓を囲みましょう。子どもの目の前で大人がおいしそうに食べる姿を見せてあげてください。苦手なものでも大人の真似をして食べることもあります。会話をしながら子どもと同じ目線で食べることは、子どもの食欲増進につながります。「おいしいね」「ごっくんできたね」など食事中の語りかけは食事への意欲をわかせます。

食品に慣れていないことによる偏食・好き嫌い

1歳後半の幼児期前期の子どもは、食べ慣れていない食品に対する不安や抵抗が強く口にしないことがあります。これは味の好き嫌いによるものではなく、食品や食事に慣れていないことで生じているのです。

この場合、食品に慣れさせるために、切り方や調理方法、味付け形などを食べやすいように工夫してみましょう。味、かたさ、見た目がちょっと変化しただけで食べることもあります。

多くの食材を経験し、様々な味や食感を知りましょう。

食べやすくする調理の工夫

◆初めての食材に慣れる工夫

星やハートなど子どもが喜ぶ形に型抜きしたり、小さく切ったりして、食べ慣れている食品(卵焼きやハンバーグなど)に混ぜてみます。徐々に切り方を大きくしていき、慣れさせます。

切り方の工夫

  • 葉野菜:線維があって噛み切りにくいので繊維を断つように切りましょう。卵と混ぜる、あんでからめるなどもおすすめです。
  • 根菜:線維を断つように切りましょう。加熱で柔らかくなるものは大きく切ってもOK。
  • 魚:加熱をするとほぐれるものは大きく切ってもOK。異物になる小骨は取り除きましょう。
  • 肉:加熱をすると固くなるので細かく刻んで線維を断ちましょう。

調理の工夫

  • 香りの強い野菜(玉ねぎなど)は、じっくりと加熱調理すると香りが和らぎます。
  • 子ども好みのケチャップ、ソース、カレー粉などの調味料を味のアクセント程度に極少量利用してみましょう。
  • 赤身魚など加熱してパサつくものは、マヨネーズをうすく塗って焼くとしっとりします。ホワイトソースをからめるのもおススメです。
  • 肉のパサつき防止に片栗粉をまぶして焼いたり揚げたりすると肉汁が逃げません。薄切り肉は野菜を芯にして巻くと食べやすくなります。ひき肉がバラバラして飲みこみにくい時はあんでからめましょう
  • 調理を工夫してみても嫌がる時は無理強いせず、少し間を空けて忘れた頃に再びチャレンジしてみましょう。

味覚の発達による偏食・好き嫌い

2歳頃になると、味の好みがはっきりして苦手な味や食材がでてきます。無理やり食べさせようとすると、かえって偏食・好き嫌いを助長してしまうことがあります。一度拒否した食材は無理やり食べさせるのではなく、日にちを置いて改めて食事に出すようにしましょう。調理方法や見た目を変化させるなどして、繰り返しチャレンジできる機会を設けましょう。

この時期の対処方法には、次のようなものがあります。

子どもの好きな味覚を利用する

味覚には以下の5種類があり、生物が体に必要な成分を見分けるのに重要な機能を担っていると言われています。

甘みはごはん、芋類などエネルギー源になる糖質のシグナルです。

うま味は魚、肉、卵、大豆製品など体をつくる材料となるたんぱく質のシグナルです。

塩味は体の調子を整えるミネラル(ナトリウム、マグネシウム、カルシウムなど)のシグナルです。

苦味は毒のあるものを示す味として認識されます。そのため、甘味や塩味と比べて約千倍も感じやすいため、野菜のちょっとした苦味に敏感になる子どももいます。

酸味は腐敗のシグナルとして感知さることが多く、人間には防衛本能として酸味や苦味を嫌う傾向があります。

甘み、うま味は子どもが好きな味であり、これらを感じられる食材や食品を利用すると偏食・好き嫌いが改善することがあります。特にだしのうま味は美味しさを感じたり、食欲増進につながったりするのでぜひ活用しましょう。塩味も子どもが好きな味ですが、腎臓に負担がかかるので多用は控えましょう。3歳くらいになると受け入れられる味覚の幅が広がるので、酸味も利用できます。幼児は酢の風味に慣れにくいので、マリネ酢やすし酢のように甘みやうま味を一緒に感じるものを料理に取り入れましょう。

味を感じるには、食べ物を口にとどめておくことが必要です。丸呑みしてしまうと味を感じることができません。既に述べたように、咀嚼機能にあった食事内容にしてしっかりと噛むように促すことが必須です。昆布やかつお、しいたけ、いりこなどからとっただしは旨味の宝庫です。だしをつかった料理は素材の味が活き、薄味でも美味しく食べることが出来ます。薄味にすると、よく噛んで味わうようになります。また、だしの旨味を感じると唾液が増え、噛む回数も増えることが分かっています。一からだしを取るのが難しい場合は化学調味料が無添加のだしを用いましょう。

食品に興味を持つ体験をさせる

この頃の好き嫌いの改善には食品に興味を持たせることが近道です。買い物に一緒に行ったり簡単な調理のお手伝いをしてもらったり、味見係をする経験や食に関する絵本を読む、栽培や収穫などの活動も食事への関心を高めることにつながります。

子どもが苦手な食品を周りの大人がおいしそうに食べたり、お友達と一緒に食べたりすることも好き嫌いを改善するきっかけになります。保育園ではよく食べると言われるのは、このような経験を積むことによるものだと言われています。

障害特性による偏食・好き嫌い

障害がある子どもには障害特性に応じた食事支援が必要になることがあります。

障害がある子どもの偏食は自然には改善せず、栄養素不足に至ってしまう場合があります。しかし食事内容や支援の方法を工夫することで食べられる食品を増やすことが可能です。

例えば、視覚障害のある子どもには、食品の位置がわかるような配膳をしたり、濃い色のお茶碗にご飯を盛り付けるなど食器を工夫したりして、食事の支援をすることができます。

発達障害の場合、感覚が敏感なことでごくわずかな野菜の苦味も感じて食べられなかったり、窓から差し込む光や食器の色の影響を受けて食べられなかったりします。障害特性や子どもの特性に合わせた食事支援をしましょう。

例えば自閉症による特性により偏食・好き嫌いが生じている場合、

感覚特性

食感で好き嫌いが生じやすい(サクサク、かりかり、モチモチなど)。口の中の食感だけでなく、手で触った触感で食事を選んでいることがある。

こだわっていた食感や触感でも時間とともに拒否したり、逆に拒否していたものを受け入れてそれにこだわるようになったりすることもある。熱い冷たいに敏感に反応することがあり、温度が変わることで同じ食材でも食べられなくなることがある。

対応…好みの食感、触感、温度、色、においに調理し、こだわりを修正するよりもこだわりを活かして食事を与える。少しずつ普通食に変化させていくことも有効。

見て判断してしまう

長い、せん切り、粒々など好みの形状で偏食や好き嫌いが生じることがある。食材の原型がわからなくなると不安で食べられないことがある。

対応…好みの形状に調理し、こだわりを修正するよりもこだわりを活かして食事を与える。好きな味付けやふりかけなどの調味料を利用することで食品の形状ではなく、味で食べられるようになることがある。調理過程を見せて、食材の原型が変わっていく様子を見せる。食材が何かわかるような盛り付けをする(例:コーンスープに数粒トウモロコシを添える)

慣れているかどうかが左右する

食べたことがある料理のみを食べる。同じ食品でもメーカーやパッケージが違うと拒否することがある。

対応…苦手な料理を食べられたら好きな物を食べられると約束する。苦手な料理は少量で。パッケージから直接与えるのではなく、好きな容器に入れ替えてから与える。

参考文献:藤井葉子、山根希代子 自閉症における偏食、食行動異常を含む食事の問題への対応 小児の精神と神経 55 143ー151 2015

★普段から習慣作りに努めることなどを基本に、子どもの日々の状況に合わせて、偏食や好き嫌いの予防・改善対策に努めましょう

★子どもの食欲にはムラがあります。1日単位ではなく1週間単位で食事内容をチェックしましょう。

★せっかく用意した食事を子どもが食べてくれないことが続くと悲しい気持ちになったり、イライラしたり、なんとか食べさせようとしてしまいがちです。しかし、一番大切なことは「一緒に楽しく食べること」!!まずは大人がゆったりとした気持ちで食事の時間を楽しみましょう。楽しい雰囲気の食事時間を経験していくことは、一緒に食卓を囲む喜びを知ることにつながります。

★分からないことがあれば、一人で悩まず、専門家に相談しましょう。

監修 伊藤美希

管理栄養士
幼児食インストラクター
離乳食インストラクター協会1級通信講座受講
病院栄養士の経験を経て現在は保育園栄養士として「食べることが好き!!」という子どもが増えていくよう、乳幼児の食事作りや食育に取り組んでいる。